“The People of Sand and Slag”
2004
Paolo Bacigalupi
こちらは、おそらく “ギャンブラー” よりもっと未来の舞台設定。人類が身体構造を抜本的に改変し、不死身に近い生のあり方を得ている時代。
その代わり、既存の動物はことごとく絶滅している。
生きた個体なんてあえて保存する価値はない。莫大な維持費がかかるからね。
複雑な生態系はそう簡単に再現できない。無理なことはやめてすっぱりあきらめたほうがいい。
人々の価値観はすっかり荒んだものになっているのだけど、そう見えるのは現在の我々が“やわな体”を持つからにすぎなくて、もし人が砂や水銀をも食すだけで生存し続けることができ、どんな外傷も即座に再生していくような体を持っているならば、このような達観した考え方になるのかもしれない。
そういう時代に生きるある3人の人間が、奇跡的に生き延びていた犬を発見する、というのがストーリー。
この犬が、実にこちらの保護意識を掻き立てる衰弱ぶりで、最初の遭遇では手に噛み付いてきたりしてたのが、餌をもらったりして次第に慣れていき、「お手」を覚えたり砂浜でいっしょに座ったり……と、まあふつうに「犬かわいい…!」な小説ではある。
やがて消えゆく儚いものであるからこそのかけがえなさ、というテーマははっきりしているのだけど、対置されているのが、笑ってしまうほど改変し尽くされた人間たちなので、そのギャップの大きさが戯画的。そして、だからこそセンチメンタルな読後感が強くなる。
SFマガジン2011年6月号収載
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/04/25
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