賛否あるだろうな、という映画。
ひとつには311震災の扱われ方について。もうひとつは、原作との相違点について。
原作との比較についてはともかく、311の扱われ方については――
古谷実世界の「日常に襲いかかるどうしようもなく理不尽な悪」というものが果たして311の理不尽さと並べて描かれてよいのだろうか、ということは、自分としても悩ましく思いめぐらせた。倫理的な是非という意味ではなく、作品の強度という意味で。
しかしそもそも、フィクションで登場する311の意味はどのようなものなのか。たとえば「311以降、世の中は完全に変わってしまった」という言い方が昨年来、いろいろなところで口にされてきたように思うけれども、天災、戦争、虐殺、疫病、テロ……人類が過去に経験してきたさまざまな災いと比べて311がどうなのか、あるいはそのような比較をすること自体、無意味なことなのか。とはいっても、古谷的な理不尽さというものが、311の圧倒的な理不尽さと比べると霞んでしまうのも確かではあって。しかしそれもまた、殊更同列に比較するようなことではないのかもしれないとも思うし……。
ただ、監督が「311を経た以上、それに触れずに“ヒミズ”をつくるわけにはいかない」……というような思いを持ったことはわからなくもない。*1
というより、そうした逡巡に率直に向き合った末にあのような映像・設定になったということには、つくり手としての誠実さを感じた。
うん……いろいろ考えても、作品のテーマを描く上でその選択が最良だったとはやっぱり思えないな。けれども結果として、そうした諸々のもやもやしたものをひっくるめてひとつの作品に仕上がっていると言えるような気はする。
テーマそのものは非常に重く、映像としての息苦しさも半端ない。息の詰まるような感情の転落、その再現度については疑い得ない。
銘記しておきたいレビュー
Soul for Sale(鈴木謙介) ― 立派な大人になる――劇場版『ヒミズ』に加えられたいくつかの変更(ネタバレ含む)
http://blog.szk.cc/2012/01/20/himizu-the-movie/
みせもんぞめき!「ヒミズ」
http://d.hatena.ne.jp/dark_side_01/20120114/1326556761
*1:
cinemacafe.net ― 園子温監督、震災後に『ヒミズ』シナリオ変更し被災地で撮影していたことを明かす
http://www.cinemacafe.net/news/cgi/report/2011/09/11256/
シネマトゥデイ ― 園子温、被災地での撮影への葛藤語り、海外メディアから質問集中!『ヒミズ』公式上映【第68回ベネチア国際映画祭】
http://www.cinematoday.jp/page/N0035147