“Quand la ville se défait: Quelle politique face à la crise des banlieues?”
2006
Jacques Donzelot
ISBN:4409230484
都市が壊れるとき: 郊外の危機に対応できるのはどのような政治か
- 作者: ジャック・ドンズロ,宇城輝人
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2012/04/18
- メディア: 単行本
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フランスの現代都市政策の展開とその問題点、および提言を謳った本。
ふたつの意味でタイムリー。
ひとつには、つい先日フランス大統領選挙がおこなわれたことへの関連。
前大統領ニコラ・サルコジはかつての内相として本書に登場し、ある意味重要な象徴となっている。選挙自体は緊縮財政の是非が焦点だったとしても、サルコジが本書以降に大統領に上り詰めそして今敗退したということからは、歴史が現に同時進行している事実を意識させられる。
またもうひとつは、建築誌 a+u 3月号での “ラカトン・アンド・ヴァッサル Lacaton & Vassal” 特集への関連。
この号は常日頃に比べて地味に見えつつも意外と高評価だったようなのだが(たとえば新建築4月号の月評で評者二組から好意的に言及されていたり)、ドンズロと併せて見返すとさまざまな部分でリンクしていることが再発見できて、さらに精読を誘われる。
というより、L&V による建築実践の意義を理解するにはドンズロのこの本は必須だと思う。
なお、現在の日本社会へ展開するヒントとしては、翻訳者のTweetを中心にしたTogetter( “今大阪で何が起こっているのか、『都市が壊れるとき』の訳者が語る”)が参考になる。
ノート
- 「社会問題」と呼ぶのか「都市問題」と呼ぶのか。
- 「都市問題」と呼ぶことによって、以下が考察可能となる。
- 都市の特定部分にあらゆる社会的困難を集中させる原因とは。
- その特定部分と他の部分との関係とは。そのような関係から生じる都市の分解状況を解消する手段とは。
- 「都市問題」と呼ぶことによって、以下が考察可能となる。
- 近代都市:過去半世紀のうちに、「解決法」から「問題」へと変化
- 20世紀初頭:近代的社会住宅:社会的不安全 (雇用喪失)・市民的不安全 (犯罪)という社会問題のふたつの面を解決する手段として登場した。(雇用に付随する権利としての住居・衛生的標準化)
- 1950〜1960年代:大規模住宅団地:社会問題の解決の総仕上げとして登場:歴史的都市の正反対(反都市)。「都市的なものによる社会の近代化」の主要形態。
階級に無関係な居住環境として工業化に社会を適応させた。労働の手段だった住宅から、労働の目的としての住宅へ。 - 1970年代以降:近代の栄光を体現していた大規模住宅団地が、都市問題化。主要な政治的懸念材料となる。否定的なイメージへの転換。
都市に紛争・暴力が戻っただけではなく、都市の相対的不安全によって都市の分離という新たな問題の発生。社会の解体を引き起こす都市の三分割:ほとんど人類学的な断絶。社会問題と都市問題の関係の意味が変わる。
- 都市の分割
- 〈棄て置き〉
- 中流階級が団地を脱し個別的居住を選ぶようになり、空いた場所を埋めるため貧困階層の受け入れが促進。→マイノリティと貧民が棄て置かれた場所に。
保護の場所というよりも監禁の場所。私有空間が、共用空間の危険からの避難所の役割を果たす。
「強制された内輪」
- 中流階級が団地を脱し個別的居住を選ぶようになり、空いた場所を埋めるため貧困階層の受け入れが促進。→マイノリティと貧民が棄て置かれた場所に。
- 〈外郊外化〉
- 〈ジェントリフィケーション〉
- 〈棄て置き〉
↓
都市問題に対し、1980年代に「都市に対処する政策」(都市政策)が策定される。
:「社会的混合」という明確な哲学による主導。
- 「都市に対処する政策」の行動
- 社会的開発
- 地域の積極的差別 (アファーマティヴ・アクション)
- 都市再生
居住者たちのイメージを向上させることではなく「街区のイメージを打破する」ことを目標とした政策行動。
- 「都市に対処する政策」の哲学
- 「都市に対処する政策」の方式
↓
しかし成果は貧弱。
「都市に対処する政策」は都市の異常事態を理想へ回復する(都市の問題を解決する)という理念に立脚しているが、これは都市の多様性・都市のダイナミズムから逸れている。機能するがままの都市の姿に関心を払わない。
↓
「都市を擁護する政策」の構想が必要。
- 「都市に対処する政策」から、「都市を擁護する政策」へ転換するための三つの手段
- 混合を課すより移動性を促すこと ← 社会的混合の原則
- 再生を利用して居住者たちの実現能力を高めること ← 住居対策
- 都市を民主化するために再結集すること(都市圏) ← 遠隔統治
三分割される都市の問題は、内輪の諸形態の差別化された排他的性格
↓
都市の断片のあいだにつながりを持続させることの必要性
- ヨーロッパと北アメリカ諸国で実施されたプログラム結果を含む諸実践の観察に基づき、都市政策を次のように方向転換することを提言;
- 社会的混合の実現のためには、恵まれない市街区域に社会的混合を課すよりも、移動性を促すほうがよい。
- クラブ論理に従って結びつかせずに、都市を再結集すること。
「都市に対処する政策」は、〈都市の精神〉に関心を払っていないことが問題。
- 〈都市の精神〉:
- 個人のエネルギーを移動性によって発展させることのできる、ネットワーク論理や水平線の力に固有の能力
- 街区の水準に諸力を創造することで生まれる、集団に固有の能力
- 都市圏という政治的アイデンティティを構築すれば都市ネットワークそのもののなかに生まれる、都市に固有の能力
都市に問題があるのは、団地で開かれと閉じられの結合が失われ、外部の恐怖をはらいのけることができないから。
「都市の精神」により、都市をただ問題の視角(読解のための原則)だけでなく解決法の視角からも考察できるようになる。
都市は死んでいるのではなく、ただ壊れているだけだ。断片である諸形態は一体を成す分だけそろってはいるのだが、諸形態を結集する意志だけを欠いている。
「国家は都市を捕獲したが、都市が国家の論理を攪乱して拡大しかたちを成し、壊れていくのを妨げることはできない」(ドゥルーズ)
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フランス、パリに事務所を構える建築家。
アンヌ・ラカトン Anne Lacaton + ジャン・フィリップ・ヴァッサル Jean Philippe Vassal
老朽化する公共集合住宅に対する住宅関連省(当時)による解体・再建路線へ反発し、改修・増築による既存建築の有効利活用を主張。パリ高層住宅プロジェクトなどで理念を実践。
http://www.lacatonvassal.com/
- 理念と特徴
- 「いかに最小のコストで最大の空間を実現させるか」
- 経済性の追求 ・・・規格建材の活用・高性能で効率よい工法(短期施工)
- 施工単価の低減を建設面積へと転化し、広大な有効空間を確保
- 既存の住環境をリセットするのではなく、そこにそのまま新規の空間を重ねたり付加したりする
↓ - 公共側の低予算設定にもかかわらず、与条件面積の倍増・建築条件の向上を成功させる
- 閉塞的ではなく、眺望が確保され広大で透明性のある空間
- 「いかに最小のコストで最大の空間を実現させるか」
- 編集部によるテキスト:
- 「彼らの作品の写真を見ていると、いわゆる建築写真然とした竣工直後の写真がきわめて少ないことに気づく。かわりに施工途中の写真と、人が暮らし始めた後の家具や物であふれた写真が大半を占める」*1
ラ・シネの集合住宅改修
2006
所在地:La Chesnaie, Saint-Nazaire, France
デベロッパー:Silène, OPAC of Saint-Nazaire
プログラム:既存40戸の改修および拡張(30〜40%増)・新規40戸増築
延床面積:8,612㎡
建設費:5.2百万ユーロ
1970年代、近代的な住宅を大量に提供するという都市計画に基づいて建てられた集合住宅。
- こうした集合住宅へ一般に為されている対処:
- 既存の建物への配慮がないままに、取り壊される
- 部分的に壊される
- 取り壊しの結果さらに少ない住宅が建設される
- 私有化のもとに共有空間を仕切られるか
- 都市計画とともに再構築される
↓
- 一方、L&V によると、この地区の長所は;
- 住民・緑地
- モダニティ
- 良く維持された堅牢な構造体
- 高層階からの眺望
- 市の中心部への交通利便性
- 問題解決のため、住民に近い立場で為されている維持管理
- 住民の親近性 地域に根付き愛着を持つが、否定的イメージに悩まされている
↓
- 実施された改修内容
- 各住戸の狭いバルコニーを撤去し、サンルームのような半屋外空間を付加
- 同様の構成を持つ新規の住棟を増築
- 駐車場およびエントランスの整備
ボワ・ル・プレートル高層住宅改修
2005-2011
所在地:Boulevard Bois le Prêtre, Paris 17, France
施主:Paris Habitat
プログラム:賃貸住宅 全96戸
(偶数階:5LDK×4戸 / 奇数階:2LDK×4戸・1LDK×4戸 / 地上階:ピロティ)
計画面積:12,460㎡(既存8,900㎡)
建設費:11.2百万ユーロ
1960年代に建てられた低所得者向け集合住宅。
17階建・高さ50mの搭状住棟。
1980年代に一度改修されている(外壁の断熱パネル付加・樹脂製サッシへの更改・1階ピロティの閉鎖)。→開口面積縮小・ベランダの狭隘化という問題。
↓
再び改修が選択され、コンペの結果、L&V+Frédéric Druot案が実施された。
- 実施された改修内容
- 各戸外周部にサンルーム(奥行2m)とバルコニー(奥行1m)を増築
- 建物中央に集中していた閉塞的なエレベータを、中廊下の南北両端へ分散・シースルー・エレベータにより中廊下へ外光を導入
- 計画実施上のポイント
- オフサイトでのユニット工法を活用することで、住民が居住しながら施工
- 住民とのグループ・ディスカッションを計画に反映(モデルルームの確認を含む)
参考)MoMA "Small Scale, Big Change: New Architectures of Social Engagement" (October 3, 2010–January 3, 2011)
http://www.moma.org/interactives/exhibitions/2010/smallscalebigchange/projects/transformation_of_tour_boise_le_pretre
*1:
工事中の写真はともかくとして、竣工後の写真にこだわる L&V が異例だと言うのは、いわゆる建築デザインの専門誌・専門書籍において「建築作品」の紹介が悉く竣工写真によっておこなわれているという実態を踏まえている。最新情報を伝えるという意味では竣工直後の写真になってしまうのも当然な側面はあるけれども、一方で、生活感にまみれていない竣工直後の状態こそが建築作品にとっての理想的状態であるという考え方が建築家たちの通念にあることも厳然とした事実だ(篠原一男を代表例として)。SANAAおよびそのフォロワーが “室内に植栽やキュートな家具を置いた建築写真” を流行させたことは、長きに渡る竣工写真のあり方を変えつつあるのかもしれないが…… それらが竣工時だけテンポラリに用意されたものではないと仮定したとしても、結局のところ、建築写真のなかに “脱ぎ捨てた洗濯物” や “ビールの空き缶” などが映り込んでくることはやはりありそうもないことだ。