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 神林長平 “ぼくらは都市を愛していた”






ぼくらは都市を愛していた

ぼくらは都市を愛していた






(前置きなしで、以下、ネタバレ含む本題。)


 自我と他我が区別つかなくなっていく――という部分については、率直に食傷。もちろん、30年程前に『七胴落とし』を書いた作者は定型の先駆を為した側ではあろうけれども……。わたし自身はこのテーマにほとんど興味はない。どちらかというと、なぜ人々がこれをテーマにしたがるのかという点にかろうじて興味がある程度。
 ただしこの作品を読み進めていくと、「自我と他我の融合」は主題ではなくて、むしろ「ひとりの人間が他我を駆動させる」ということの前振りとして働いているというのがわかる。他我の駆動は『猶予の月』の〈擬動〉を思い起こさせるが、ここでのポイントは〈機械〉としての都市との関係。都市とヒトが相互準拠的であるというのがたぶん枢要。
 
 もうひとつ、神林長平の一貫したテーマであるところの「言語」。
 認識は情報処理であり、情報はつまり言語である、と。
 このとき、認識と客観世界はどちらが先に来るものなのか。
 
 
 これについては、『〈私〉の哲学 を哲学する』ISBN:4062165562における永井均の図式が援用可能と思う。


敏三 … 〈唯心体〉 客観的世界の全体が私の意識の内部にしかない
敏二 … 〈唯物体〉 物理的なものである脳が意識を生み出している
敏一 … 〈唯言体〉 こうした議論そのものはすべて言語の働きにより構成されている
(第IV部 1 聖家族――ゾンビ一家の神学的構成)

 彼らは三人とも、自分ひとりで余すところなく世界を構成することができる。
 〈唯物体〉は自分が持っていない「意識」を、〈唯心体〉は自分が持っていない「物質」を、それぞれ「言語」の働きを借りることにより概念として所有することに成功している。
 
 
 都市のゲートキーパーの台詞;

都市を成立させるには人間の〈観念の言葉〉が必要ですし、都市を更新し続けていくこと、つまり生かし続けていくには、そうした観念をつねに生んでいる、ヒトの〈意識の流れ〉が必要なのだ、ということをご理解いただけるでしょうか。
(p239)









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