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 キャスリン・ビグロー “ゼロ・ダーク・サーティ”






“Zero Dark Thirty”
 Director : Kathryn Bigelow
 US, 2012





 2011年5月2日のウサマ・ビン・ラディン暗殺作戦に至るまでのアメリカ/CIAの活動を描いた映画。
 基本的な前提として、実際のあの出来事に対する評価判断をこの映画によっておこなってはいけない、というのはあるはず。これはあくまでもエンターテイメントとしてつくられた映画であって、ドキュメントとは決定的に異なる。いくら膨大な実在関係者への取材からできていたものであるにしても。
 この映画についてまず語られなければならないことがあるとすれば、それは、“War on Terror” なるもののひとつの象徴的な節目である出来事がどのように描かれたか、ということだと思う。
 その意味では「主人公」を誰にしているのかというのが最初のポイントになってくるわけだけど、この映画では、作戦実施のキーとなったCIAの女性局員が主人公として設定されている。とりあえずこの映画があの出来事を肯定しているのか否定しているのかはともかくとして、アメリカにとっての「英雄」ロールモデルの最新形というのはこういうキャラクターなんだ、というようには思った。
 非常に優秀であり*1、ときには上司をもコントロール*2、一方で感情的すぎる面もあって*3
 いや、この映画はUBL殺害作戦を特にはっきり称揚してるわけではないとは思うし、逆にはっきり疑義を提起してるわけでもないんだけど、「UBLへの勝利における立役者」を「英雄」として扱おうとする立場はアメリカに一定数いるはずで、そういう見方もされ得るポジションをこう描くというのは興味深かった。(加えて言うなら、あれだけの重要な作戦がひとりの優秀な個人に帰するものであるかのような描き方というのが、やはりエンターテイメントだと感じさせられた大きな要因だとは思う。最終的な「決定者」であるはずのバラクオバマが描写からほぼ排除されてるっていうのも(政治的にはそうせざるを得なかっただろうとしても)重要。)
 作戦そのものへの是非について映画としてどういうスタンスなのかはあまり見えてこないけれど*4、スタンスがはっきりしないということ自体が既にして立場表明でもあるようには思う。つまりとても逡巡しているような。すっきりしない終わり方であるのは確か。空母から執り行われたという「水葬」で終幕を迎えるとしたらいくらなんでもふつうすぎるだろうなと思っていたけど、そうではなく、主人公に明確な達成感が生じていないような描写だった。ただ、「どこへ行きますか?」っていう最後の台詞は、UBLを抹消したあとのアメリカがどこへ向かうのかっていう問いかけではあるのだろうけれど、達成のあとの個人的な虚脱感や喪失感をマクロなものになぞらえるのもテーマとしては薄いような気はしなくもない。つくり手としてはこの主人公をただ描きたかっただけなのかもしれないけれども……。
 「100%確信あります。あなたたちがビビるだろうから95%ぐらいって言っときますけど」という台詞が印象に残った。主人公のキャラクターはここで完成されていると思う。


 あとは、作戦に使用されるステルス型ブラックホークの飛行シーンが単純にかっこいいと思ったりした。「ブラックホーク・ダウン」の汚名が晴れることになるのだなーと思いつつ見てたら1機墜落して、あ、ブラックホークはやっぱり墜ちる宿命にあるんだ……って。実際の事件展開思い出してそういえばあのとき確かにそんなこともあったなと。細かいところ忘れていた。チャップマン基地での自爆テロも、画面で起きて始めて思い出した。全体の時系列もほとんど忘れている。




IMDb : http://www.imdb.com/title/tt1790885/


基礎的な背景とか問題点についての参考リンク
 米映画「ゼロ・ダーク・サーティ」を観て―「テロの戦争」を振り返る 小林恭子の英国メディア・ウオッチ
 http://ukmedia.exblog.jp/19237149/
 ひとりを殺すための犠牲 失われたアメリカの正義 町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」
 http://www.cyzo.com/i/2013/02/post_12537.html

*1:CIAの職員である時点で既にみんな優秀ではあるのだろうけれど。登場人物のひとりがまさにそういうことを発言してもいる。

*2:支局長を糾弾するシーンでドアが開いていたっていうところとか、「リーク」のところとかがちょっとどきっとした。

*3:ガラスパーティションに何日経過したか執拗に書き続けるところは、キャラ造形としてやりすぎでは……と思ったぐらい。

*4:たとえば、もし「テロ戦争」に肯定的な立場だったら、「拷問を認めない」っていうオバマ大統領のTV映像をCIA職員たちが見ている場面で「こいつは現実をわかってない/テロリストには拷問が必要だ」みたいに反発させる発言を入れてきたはずなんだけど、そうならなくてまったく反応がなく無言、っていうのが象徴的だったと思う。






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―Angela Mitchell