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 さわ ひらき “UNDER THE BOX, BEYOND THE BOUNDS” 2014.01.18. - 2014.03.30.







さわ ひらき Hiraki Sawa UNDER THE BOX, BEYOND THE BOUNDS
 東京オペラシティ アートギャラリー





 すばらしかった。たぶん開催期間中にもう一回見に行くと思う。

(展覧会公式サイトより抜粋)
ロンドン在住のさわひらきは、近年国内でも発表の機会が続く注目の映像作家です。室内を小さな飛行機が横切り、やかんや木馬がひとりでに動き出すといった箱庭のような世界を描くさわの映像は幅広い観客に支持されています。現実にはありえない光景にもかかわらずなぜか親しみを感じさせるのは、そんなひそやかな世界をだれもが心の中に持っているからではないでしょうか。閉ざされた空間で現実を少しゆがめてみたり、遠い宇宙に思いを馳せてみたり、さわの白昼夢のような映像は、ひとりひとりが持つ居心地のよい領域(テリトリー)、そして時間軸をともなった領域である個人の記憶について考えさせてくれます。

本展では、さわの最初期の作品から一貫して見られる領域への関心をテーマとして展覧会を構成します。冒頭ではドローイングや立体作品でさわ自身の日常および意識における領域の手がかりを示しつつ、初期の作品から本展のための新作を含め、映像作品をたどりながら考えていきます。新作のひとつ《Lenticular》はスコットランドダンディー市に残る古い天文台で撮影された作品で、独学の老天文家ロバートの姿を通して宇宙へとつながります。東京オペラシティ アートギャラリーの大きな展示室を使い、映像と空間の全体を作品として展示する今回の展覧会は、物理的な空間と意識の中の領域を交差させる試みであり、さわにとっても大きな挑戦となります。




作品内容について

 日常風景をベースに合成・コラージュによって夢の世界のような情景の映像をつくる、というのがスタイルとしての特徴で、これがデビュー作 “dwelling” で既に確立されている。
 “dwelling” は何度見ても格別にすばらしい。世俗的住戸のなかを玩具のような飛行機の数々が離着陸を繰り返す。ただそれだけのことで、日常がまったく異なる世界へ一変する。……なんてありふれた言い回しをしてしまうけど、ひとつのシンプルな操作でこれほどの効果を出せているというところが希有。全体的に静謐なのも良い。そして、だからこそ局所的に聞こえる飛行機音が際立った印象を残す。(オリジナル版は常に音響入ってたと思うけど、この展示では多作品と同室配置だったためか大部分がサイレントとなってた。)
 視界に映る情景を別のものへ見立てる。そのための仕掛けとして、飛行機だったり動物だったり。子どもが想像する世界を戯画的ではなく写実的に描き出している、っていう感じがある。

  • 「回転」というのが共通モチーフのひとつとして使われている。
  • 2011年のインタビュー。“Within” の一部が見られる。
     Interview with Hiraki Sawa - Bye Bye Kitty!!! JapanSociety, 2011.05.28.

     www.youtube.com



映像作品の展示方法について

 映像系アートを見るとき、どのような方法で展示されているかというのがいつもわりと気になる。映像作品はスクリーンやディスプレイでただ無頓着に映し出すのではなく、展示方法も作品コンセプトの一環としてきちんと考えられているものであるべきと思う。
 本展示では、映像アートをどう見せるかを作品ごとにさまざまなアイデアで試行されていて、とても良かった。前に国立新美術館のアニュアルでさわひらきが展示されてたときも映像の見せ方には工夫があったけど(see. http://d.hatena.ne.jp/LJUa/20080509/p1、今回のはさらに進化してる。単独展示だからこそできた豊富なバリエーション。

  • 導入部分も巧くできていた。明るい通路の壁面に掛けられた白いオブジェクトの連なり。メトロノームやティーカップ、縮小されたラジエーターなど。次第に陰のなかに入っていく廊下を過ぎると、大きく開けた暗い部屋で最初の映像に会することになり、先ほど見たオブジェクトが映像内に登場するのが確認される。
  • 映像系アートとループの問題。
    映像作品をギャラリーで観賞するとき、映像の開始部分に邂逅するかどうかは純粋に確率的問題であって、ほとんどの場合は途中から見ることになるはず。
    何分間の作品か知らずに見てても、自分より先に見ていた人が場を立ち去ると、あぁ…このあたりでこの人のループが終わったんだな、自分のループもそろそろ終わるかも、ということがわかる。




特に銘記しておく作品


 Lineament

 最初の展示作品。これは内容自体はそんなに好みではなかったんだけど(このアーティストを知らない人が最初に接する作品としてはおすすめできない。*1、展示方法が良かった。
 2枚の大きなスクリーンを少し角度をずらして並置し、同時にふたつの映像を流す。スクリーンのすぐ隣に入口からの動線が開けているので、展示室へ次々に入ってくる鑑賞者が映像と対照される。あたかも鑑賞者を作品の一部として取り込むような。後半で展示されてる作品 “Envelope” が鏡によって出している効果にも通じる。



 Within / Eight Minutes / Ages

 “Lineament” が映写される部屋の奥に隠されるかのようにして展示されている三つの作品。木製の壁と、低い色温度のペンダントライトで構成された空間。大部屋から、セミクローズドな小さなコーナーへ。直前の作品と同じ人数で見ていても、互いの気配の意味合いが異なってくる。
 作品内容も良かった。三つ組み合わせて展示されていることでの相乗作用もある。“Within” での木馬と “Eight MInutes” での山羊の群れの対比がまず見て取れるけど、さらに第三項として “Ages” の歩くポテト(?)が加わるのがおもしろいと思う。
 “Eight MInutes” でも “Within” でも、洗面シンクがコラージュのように自然風景に疑せられる。時に印象に残ったのは、ドラム式洗濯機をぐるぐるまわる群れと、鍵穴から漏れ見える木馬。



 Fragments from Hako

 幅が狭く天井が高い通路の、正面上部壁面に投影されている振り子時計。



 Souvenir IV

 窓辺で踊る女の子の、幽霊のように重なり合う残像。



 Lenticular

 吊り下げされたドームに下から投影される映像。一方、部屋の片隅にはわずかに傾けられたスクリーンがあって、別の映像が流れている。映るのは古びた天文台プラネタリウムの映写機であり、ドームが湛える映像とリンクする。
 手前の部屋のコーナー部分に展示されている “For Saya” が視界の隅に入ってくるのも良かった。



 Envelope

 三つの鏡の反射によって観賞する作品。自分の姿と作品とが同時に視界に入るのがポイント。







*1: 
 「映像系現代美術」のステレオタイプ・イメージそのままな感じの部分がなくもないので……。人物が大きくフィーチャーされてるからそう見えるのもあるかも。
 部屋とか家具の雰囲気は他の作品のテイストに連なってるし、すごく良いのだが。窓の外の、波寄せる海とかも。






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell