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 ルーサー・ブリセット “Q”



“Q”
 2000
 Luther Blissett
 ISBN:4488010113, ISBN:4488010121





Q 上

Q 上

Q 下

Q 下





  • 敗北の物語。
    • ひとつは、繰り返される抵抗とその失敗。
    • もうひとつは、まったく別種の敗北。
  • 舞台は中世末期のヨーロッパ。マルティン・ルターに端を発する宗教改革を背景とした小説。
    実在した歴史上の人物・事件へ絡む架空の人物ふたりを軸として物語が進む。
    ひとりは負けるたびに名前を変え遍歴し続ける逃亡者であり、一人称で語られるこの小説の主たる視点。
    もうひとりはその敵、秘かな策謀と工作で主人公側を何度も破滅させる密偵であり、時折挿入される書簡の書き手という視点を担う。
  • 文章は読みやすい方だと思う。
    • 基本的に現在形で書かれているのが特徴。
    • また、各章には日付が添えられている。これがとてもわかりやすい。時間経過、現在と回想の区別、主人公と敵の相対的な状況…… などがはっきりわかって、余計な複雑さに煩わされることなく物語展開に集中できる。
    • 一部の個所で、ずっと同じように回想が語られ続けているのに、過去の日付と現在の日付(回想を語っている時点の日付)が交互に示されるところがある。必ずしも語っている時点の状況が描写されていないのに、なぜ現在の日付で書かれるのか。また、示されている日付の時点ではまだ知らないはずの情報が語られていたりもする(敵についての回想)。日付の機能と意義は一見するほど単純ではないかもしれない。
  • 作者について。
    • 「ルーサー・ブリセット」というのは文学や音楽などさまざまな文化活動をひとつのシェアード・ネームでおこなうオープン・プロジェクトで、“Q” という小説もプロジェクトの一環としてイタリア出身の4名がこの名義で書いたもの。(「ルーサー・ブリセット」という名前自体は、1980年代にACミランなどでプレイしていた実在のサッカー選手から採られているらしい。)
    • “Q” を書いた4人はその後、Wu Ming(中国語で「名無し」を意味する)という名義に変えて活動中。
    • 著者のこうした背景が、“Q” の小説内容にオーバーラップする感じがある。
      • 名前を変えながら活動していくこと
      • 出版活動の意義
  • 圧制、抵抗運動、弾圧、民衆蜂起、束の間の解放、武力鎮圧・虐殺・あるいは自滅。
    ……こういった一連の流れの繰り返しを読むと、現在におけるシリアやエジプトの情勢が頭のなかに去来する。何か抗えない普遍的な構造があるようにも思えてしまって。
    • でも、より大きな歴史として見れば、宗教改革と農民戦争の上に現在のヨーロッパは築かれているわけであって、まったくの無駄に終わったわけでもない。
  • 主人公はさまざまな抵抗活動のキーパーソンのひとりとして描かれてはいるけれど、看板そのものではない。そうした立場は別の人物、何かしらのカリスマ性を持った説教師たちに委ねられていて、主人公は常にその補佐のような位置にいる。
    最終的には主人公も自ら説教師になるが、それは個人的な戦いに決着を付けるための偽装。
  • 敗北の物語。
    • 主人公の敗北は、逃亡とあらたな活動を繰り返すサバイバル。
    • もう一方は、敵の敗北。
      • 「君は命令に従い、君は彼の計画の一部を担った。君は生涯他人に仕えた、その完遂を見ることさえ君には許されない結末のために。それが君の敗北だよ。君は、領主たちやローマの権力を相手に戦ったあの何千もの下層民や異端者のように戦場で負けたんじゃない。君には何も残らない。自分がやったのだという実感すら」










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―Angela Mitchell