::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

 [ABOUT LJU]
 [music log INDEX] 
 

 Oneohtrix Point Never “Garden of Delete” (2015)



GARDEN OF DELETE [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] アマゾン限定特典マグネット付 (BRC486)






 同時代で押さえておくべき “あたらしい” 音楽はどれかと問われた場合、今ならさしあたり OPN / Oneohtrix Point Never を挙げておけばまちがいないはず。前作 “R Plus Seven” のときにも感じていたことだけど、最新作 “Garden of Delete” を聴いてその認識がさらに強くなった。これをヴェイパーウェイヴという一語で終わらせてしまうのはもったいない。
 まず何よりも、曲構成の独創性。
 いつも思うんだけど OPNって、曲の途中で展開を切り替える静音部が頻出するのが大きな特徴だと思う。少なくとも “R Plus Seven”以降、EP “Commissions I”、“II” も含め同じ傾向が見られる。
 アルバム各曲の波形を並べてみるとよくわかる。このように↓




 曲中に何度かリズムが途切れる局面が訪れる。曲構成上の休符。展開の明確な区切りとして。
 譜の密度が高く曲調が大きく変転することとあいまってとっちらかった感じもするんだけど、レイヤーがそれほど多くなくてシンプル、全体的にトーンも一定のため、必ずしも無秩序という雰囲気はない。最終的に構成の意外性が意識に残ってくる。
 そして、とにかく聴いてて単純に音が気持ちいい。
 一貫してクリアな音場処理が為されていて、どのシーンも耳に心地よく響く。そうしたシーンが休符的静音を挟んで移り変わり、そのつど新鮮なストーリーをもたらす、といったような。
 また、ヴォーカル/ヴォイスがかなりフィーチャーされていることもこのアルバムの特筆すべき点。




 前作 “R Plus Seven” の後にリリースされた “Commissions II” というEP、特にその内の “Bullet Hell Abstraction I” という曲が既に本作品を先取りするようなサウンドだった。直接的には弾幕シューティングゲームにインスパイアされたものと説明されていたが、自分としてはあれは DJ Shadow の“High Noon”と同様に、ロックへの憧憬とその再解釈という意味合いが含まれたものだと捉えている。
 この “Garden of Delete” もやはり「ロック」という言葉と共に語られていることが多い。Daniel Lopatin 自身それを意識して制作したようだ。
 アルバムのテーマとしては「音楽産業・ポップミュージックのグロテスクな側面」といったことが語られているのだけど、こうした関心に至った背景には、Trent Reznor からのアプローチで Nine Inch Nails のツアーに参加したことの影響があるらしい。コンセプトを展開するに当たっては、架空のバンドやキャラクターを素材としたプロモーションがおこなわれている*1。同時期の Kangding ray の新譜と似たようなことをしてるんだけど、より饒舌で過剰という気はしなくもない。(少なくとも、これらを詳細に読んでいこうとは思わないな……)
 とはいえ、こうした振る舞いが「ポップミュージックのグロテスクな部分」を表現する一環であることはわかるし、このコンセプト自体は何か納得できるものがあった。特に以下の説明。

[…] トップ40に入るヒット曲みたいなものを眺めてみる。で、僕からすればああいう楽曲こそグロテスクに聞こえるんだよね。それこそもう、あらゆる類いのひねりを加えられた人工合成のヴォイスが、他の音楽の模倣/パスティーシュにくっつけられている、みたいな。[…]
僕は本当に、その部分を誇張したくて仕方なかったんだよ。
ポップであることはグロテスクであること ──interview with Oneohtrix Point Never, ele-king


 今のトップ40ヒット曲にいわゆるストレートなロックなんかほとんど入ってないだろうし、ここで言われているグロテスクな楽曲というのは、むしろジェネリックなポップスやラップ・R&B etc といったあたりがイメージされてると思う。でもそうした音楽も、そのグロテスクネスを極限まで強調していくと最終的にロックの形式に行き着く…… ということなのかもしれない。
 “Garden of Delete” はたしかにそうした過剰性を孕んで “ロック” に到達しているアルバムと言えるけど、同時に、音それ自体があくまでも徹底的に清澄なものとして整えられているということにも注意を向けたい。そこにこそエレクトロニカという形式が表れているように思うからだ。




特に銘記しておく曲
 M-2  “Ezra”
 M-6  “Mutant Standard”
 M-9  “I Bite Through It”
 M-10 “Freaky Eyes”





Oneohtrix Point Never

Information
Birth name  : Daniel Lopatin
Origin: Wayland, MA, US
Years active  : 2007 -

Links
Officialhttp://pointnever.com
  SoundCloud  https://soundcloud.com/oneohtrix-point-never
  Twitterhttps://twitter.com/0PN
LabelWarp  http://warp.net/releases/oneohtrix-point-never-garden-of-delete/

ASIN:B014V9M8UU


*1:
 ・OPN/WARPからの新作発表予告PDF http://dl.pointnever.com/tothefans.pdf
 ・Kaoss Edge なるバンドの公式サイト http://kaossed.blogspot.jp
 ・および、Kaoss Edge のブログ(Ezra なるキャラクターと OPN の対談などが記載されている) http://kaossedgeofficial.com






music log INDEX ::

A - B - C - D - E - F - G - H - I - J - K - L - M - N - O - P - Q - R - S - T - U - V - W - X - Y - Z - # - V.A.
“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell