反響を強めた音像、ハイトーンでシャープなサウンド。たとえるなら宮殿の奥で燭光を湛える無窓の大広間。周囲を闇に閉ざされながらも、内部できらびやかに輝く空間。
楽曲から呼び起こされるイメージは、Arca 自身のキャラクターや作品のヴィジュアル戦略とも完全に合致している。
いまエレクトロニック・ミュージックを志向するプロデューサーたちのなかで、Arca はもっともキャラクターを際立たせた存在だろうと思う。音源の他、メディア上で露出されるバイオグラフィ、発言、ポートレート等々。それらすべては、あたかも私小説のごとく、ひとつの個性への強い求心性を持ったものとして感じられる。
Arca というミュージシャンには、OPN などに比べて圧倒的に “語りやすい” ところがある。2ndアルバムとなるこの新作は既に広く評価を受けさまざまなレビューが出ているけれど、それらを読んで思うのは、通り一遍の紹介で終わるものが少なく、どれも趣向を凝らして能弁であること。まず “ベネズエラ出身のLGBT” というだけでも充分に関心を引く点だし、プロファイルを並べていけばレビューのテキストが自動的に半分書き上がりそう。トピックはそれだけにとどまらず、ヴィジュアル・ワーク(ジェシー・カンダ)との連動や自身の私生活にも結びついたPVなど、作品およびその制作・プロモーション全体で Arca の生があまねく表現されている。そのため、Arca を語る者は好きなように題材を選び出し多方面へ記述を繰り広げていけそうに見える。
そうした総体的な活動の中核で一貫して追求されているテーマが何かというと、端的に言えば “self” ということに尽きる。追求というより表出というべきかもしれないが……。Arca という名を付された人格・アイデンティティ、その活動、感情、思考、軌跡。OPN の Daniel Lopatin が架空キャラクターにコンセプトを託したことと対比的だ。エレクトロニック・ミュージックでこのように作り手本人を表出するケースはあまり思い出せない。作り手を顕示して語るのはむしろロックやコマーシャル・ポップ、ヒップホップといった音楽分野に見られる事象だと思うけど、それにしたってこれほどに痛々しくも切実な自己呈示に拘った例は限られてくるだろう。
音の傾向は前作 “Xen” から大きく変わってはいない。全20曲、比較的短い曲が多く、多彩な断片が続くような構成。特徴はトーンと音響、分裂と統合を揺れ動く展開。
サウンドの感触としては充分に特異的ではあるものの、PAN の M.E.S.H.とか Visionist なんかがかなり近いことをしてるのを考えれば、必ずしも唯一無比で独創的という感じではない。それよりも、勃興するあらたな潮流をまさに体現している、と言った方がふさわしい。もうこの種のサウンドには固有のサブジャンル名があってもいいんじゃないか、とも思う。
しかし Arca こそは現状、このサウンドスタイルにおけるひとつの極にいると言いたい。それは作り手が音源と不可分に絡み合い、アルバムを超えて表現を拡張しているという点において。
つまるところ、ここでは Arca というキャラクターを含めてひとつの作品が提示されていると捉えるべきなのだろう。過去においてそうした実例はいろいろあったと思うが、いまこのときにこの界隈でそうした作品が登場したことは特記に値すると思える。
Arca
Information
Birth name | : Alejandro Ghersi |
Origin | : Caracas, Venezuela |
Born | : 1990 |
Years active | : 2012 - |
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