人類が消え去った世界をふたりの女の子ユーリとチトが旅する話。ウェブ連載中で、いま3巻まで単行本が出ている。
一見、どうにも下手な絵に見えるんだけど、いつのまにか目に馴染んで逆に癖になってくる。実はこれ、むしろ相当うまい絵だと思う。(後述)
――結局
補給して移動しての繰り返しか…
この旅路が私たちの家ってわけだね
内容としては、この台詞そのままの漫画。
全体の雰囲気は『BLAME!』と『百万畳ラビリンス』を重ね合わせたみたいな感じ。無人の巨大都市とそれを維持する自律機械といった設定なんかは『BLAME!』を思い起こさせるし、ふたりの女の子がボケとツッコミ的に会話しながら旅していくところは『百万畳ラビリンス』に似ている。
作品紹介を最初に読んだときは、主人公ふたりを除いて人類が滅びてしまっている無人の世界をただ彷徨していくだけの漫画なのかと思ってたんだけど、読み進めてみたらそんなにさみしい感じでもなかった。主人公のひとりが思った以上に楽観的/ゆるふわだったのと、ごくたまにだけどふたりの他にも登場人物が出てきたりするので。だいたい各巻ひとりずつぐらいで対話可能な他者が登場する。
気質が対照的なふたりの関係にはどことなく安定した構造がある。旅の途中にだれかと出会ったときも、3人の会話というより、相反性を備えたひとりと毎回異なるゲストとの会話、みたいに思えたりする。
実際のところ、このふたりが正反対の性格に見えるのは、環境設定によるところも大きいと思う。ほとんど他者が登場せず主人公ふたりだけで進行していくような作品世界では、そのふたりは人間関係/コミュニケーションのこれ以上ない究極的縮図になるので。だから性格がどうあれ、ふたりに何かしらの差異があれば対極のものに映る。(そういったところは、施川ユウキの『オンノジ』を読んでいても感じた。)
この漫画、たぶん絵が下手ってすごく言われてる気がするし自分も最初そう思ってたんだけど、読んでくとだんだんそんなこともないな……というかほんとうはものすごくうまいのでは……?と思うようになってきた。
最初にそう感じたのはこの見開き。
たしかに線はラフだしパースも厳格に取ってるとは言いがたいんだけど、濃淡による光と影や透明度の表現はよく見るととても精確で、だからラフであるにもかかわらず描写内容は齟齬なく伝わってくる。
パースについても、別に技法をわかってないということはなくて、
このあたりの絵なんか、どっちかというと難しい方。っていうか消失点や視界の歪みという概念を理解してないと描けない構図だ。
他方、力学的構造についてはあまり気にして描いているわけではなさそう。(とくにトラスやブレースの掛かり方を見てそう感じた)
そのあたりは弐瓶勉との違いかもしれない。(いや、弐瓶勉も必ずしも力学的に正確な絵を描いているわけではないが……)
この見開きページでは、多種の図法が一同に会してたりする。一焦点パース/背景付きの側面図/見下ろしパース/キャバリエ投影、といったような。技法はわかってる上で意識的にこの画風を選んでいるんだな、と思える。(これってゲームのさまざまな表現技法の一覧みたいでもある)
というように、粗い絵柄に見せて技量を隠しつつも、ところどころでハッとする大ゴマが出てくる。
ここなんか特に。この簡素な線で光の表現描写をここまでできるというのがすごい。
視焦点の取り方など、表現技法を実に適切に選択している。
このページは、音の表現。
画力が高くないとこういう水の感じなんかも破綻なく描けないと思う。
主人公ふたりの来歴にはよくわからないものがある。
1巻の冒頭、まっくらな地下にさまよいこんで出口を見失っている状況。その前はいったいどこにいたのか、ふたりきりになったのはいつからなのか、いまのところまだ記述されていない。
昔さ
おじいさんと
パンを焼いたことがあったじゃない
あーそんなこともあったなぁ…
かろうじて過去について触れているのはこのぐらいか。
この階層型の都市を作ったのはもっと古い人間だよ
僕たちの祖先はその古代人の作ったインフラに住み着いたにすぎないと――
僕は思うけど
戦車や銃器の遺物も登場するが、これらは文明崩壊後に再度復元されたものであることがあとがきで記されている。こうした兵器の数々で大規模な戦争もおこなわれていたようだ。ということは、かつての技術水準までは到達できなかったものの一旦ある程度までは復興し、それにもかかわらずまた衰退してしまった――つまり二度の滅亡を経た世界だということになる。
ちなみにウェブ連載で現在最新の27話ではもう少し過去が見えてきて、世界のこの現状には、自己複製機械の予期せぬ進化が絡んでいる気配がある。(ここでは2巻で出てきたカナザワにもふたたび触れられていて、けっこう切なくなったりする)
いずれにせよ滅びゆく世界であることはまちがいない。主人公たちの境遇にも決して楽観や安定を見込めるようなものはない。食料の確保を当座の目的に置いて旅している面もあるぐらいだ。ほのぼのとしたキャラ絵が、ときに絶望や死について語ったりもする。
一方で、主人公ふたりにもその他の登場人物たちにも、どこか達観したところがある。良い意味で気を抜いた感じが。
こうした生き方はどの世界・どの時代でも普遍的に通じる強さとは違うかもしれないけれど、それでも、そうしたものが求められる局面で参照されるひとつに記憶していてもいいと思う。
くらげバンチ『少女終末旅行』
http://www.kurage-bunch.com/manga/shojoshumatsu/
インタビュー「どう生きるべきか 『少女終末旅行』つくみずは問い掛ける 」
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1507/24/news016.html