ライオット・ガール(Riot Grrrl)のムーブメントにおける代表的ミュージシャンであり創始者のひとりに数えられるような人物、その時点で既に伝説的とか歴史上のといった形容が充分に適用可能なのに、その後6年間の闘病生活、全盛期の知られざる事実の公表など、Kathleen Hanna の経歴は未だ波乱を付加し続けている。
2010年に現在のグループ The Julie Ruin を結成。“Hit Reset” は 3年振りにリリースされた 2nd アルバムとなる。The Julie Ruin は彼女のかつての活動 Bikini Kill と比べると、少なくとも表面上、攻撃性は薄まっている。この 2nd にしても、音調としては屈託なくポジティブ。突き抜けるような声質と前傾的なリズムには陰りがなく、なんか心地よくポップで耳に残るフレーズを繰り出す新人が登場したみたいに一瞬思うぐらい。けれどもよくよく聴けば隙のないメロディと歌詞の巧みさにはたしかに経験を感じさせる。適度な脱力感も、力の外しどころを充分わかっているからこそのものだという気がする。
このアルバムでもっとも良かったのはM-2 “I Decide”。
歌詞のほぼすべての文が主節に助動詞を伴っている。
might be / might scream / will decide / might make / can be 〜 ? / might be / might say / can be 〜 ? / will deside
はっきり定まらない事柄を語る文の数々。「かもしれない」「するかも」「なれるだろうか」「しよう」
曖昧な言い方に対比して、“decide” という明確な意志を表す動詞が組み合わされる。曲タイトルは現在形で “I decide” という強い言い方なのに、歌詞中では “I'll decide” と言って決断が未来へ先送りされてるのはなぜなのか。
最後にあらわれる文だけが唯一、助動詞を伴わない。
“I belong to the wolves who drug me in their mouths just like a baby.”
現在の状態を示す文。狼たちに庇護される自分。
助動詞による曖昧な表現は状況を認めたくない無意識の反映であって、実態としては追従、そしてそれでも自分が言いたいのはやはり “I Decide” だというのが曲タイトルにあらためて示されている。
文法構造と意味内容を細かく制御して書かれた歌詞。強い直截的な叫びではないにせよ、紛れもなくひとつの意志が示されている。might と will に絡め取られながら、それでも表明される decide。
[参考]
INTERVIEWS WITH THE JULIE RUIN, KATHLEEN HANNA HITS RESET
http://noisey.vice.com/blog/the-julie-ruin-kathleen-hanna-hit-reset-profile-interview-2016
SIGN OF THE DAY それでも、やっぱり「ファック・ユー!」という叫びが必要とされているということ。この2015年にスリーター・キニーが再結成し、新作をリリースすることを題材に by MARI HAGIHARA
http://thesignmagazine.com/sotd/sleater-kinney/
The Julie Ruin
Information
Origin | : New York City, US |
Years active | : 2010- |
Current members | |
Kathleen Hanna | : vocals |
Carmine Covelli | : drums |
Sara Landeau | : guitar |
Kathi Wilcox | : bass |
Kenny Mellman | : keyboard |
Links
Official | : http://www.thejulieruin.com |
: https://twitter.com/thejulieruin | |
Label | : Hardly Art https://www.hardlyart.com/releases/the_julie_ruin/hit_reset |