無地にタイトルとユニット名を記しただけの簡素なジャケット。これまでに出しているアルバムはすべて同じデザインで、ミニマル・テクノを追求する姿勢が端的に表れている。徹底したスタイル。どの曲もループで埋め尽くされている。各曲それぞれ10分程度の長さがあるけれど、タイムスライダーのどこをクリックしても同じ切断面が現れるといったような具合に。
M-3 “Monte Veritá” こそは、その極致。単一フレーズの反復が執拗に続く。全長10分31秒のうち6分近くの間、合計22回のイテレーション。
そのなかでわずかに2度、異なるコードでフレーズが奏でられる個所が出現する。同じ漢字を並べた羅列に酷似の一文字を紛れ込ませた間違い探しのごとく。とはいえそのようにトラップを仕掛けたものではなく明確に感知可能な差異として発せられている。
最初の差異が到来するまでの15ブロックも厳密にはまったく不変の反復というわけではない。主軸のフレーズに少しずつ重ねられ厚みを増していくレイヤー、ひそやかに始まりいつの間にか強まっていく4/4のキックなど、微少かつ漸次的な変化を孕んで進行する。
ループは圧迫をストイックに蓄積する過程。一方、それら全体が緩やかにも確実な上昇をおこなっていることは、抑制と並んで解放の予感を与えてもくれる。前方のどこかで一気に昂揚が訪れるだろうという期待を。そして実際に訪れる「変化」は結局同じように反復の線上にあって、必ずしも劇的な発散を与えてくれるものではないのだけど、さりとて聞き飛ばす無意味なものとも言えず、効果を出すに足るまさしくミニマルの操作といった感じがある。2度目の変異を迎えたすぐ後には完全な相転移がおこなわれ、別種の反復が末尾まで連ねられる。
ところで、ジャケットの文字がハンドライティング的なフォントで書かれているということも意味を持ったものであると思う。
図像を排した一面の単色に、軽くグラフィティのようなスクリプト。このジャンルだったらサンセリフ体のもっと無機的印象のフォントにしてもよさそうなところあえてこういった手業風の字体を選んでいるのは、音楽制作における作者の人為的な操作・介在を強調していると受け取れる。何も考えず機械的に複製しただけの曲とは異なり、構成に工夫を凝らした上で成立しているものであるという意味で。ミニマリズムにはそのように作り手の明確な意志が必要なのだということを、ジャケットデザインが無言のうちに誇示しているとも見える。
The Field
Information
Birth name | : Axel Willner |
Origin | : Sweden |
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