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 Andy Stott “Too Many Voices” (2016)



Too Many Voices






 “Luxury Problems” 以降の Andy Stott を決定的に特徴付けたのが Alison Skidmore のヴォーカルであったことは疑いようもない。少年期のピアノ教師だった女性をヴォーカリストとして迎え入れたという経緯も Andy Stott の音楽が纏うロマンティクスに意外と貢献している挿話要素ではないかと思うのだが、それはそれとして、他でもない彼女の声を据えたからこそ現在のこのサウンドが醸成されたことは明らかだろう。徹底的に編集加工されていても拭いきれずに残る声質が楽曲を横断して感じとれることは、エレクトロニック・ミュージックの中で他の音要素と明確に弁別される固有性として働いている。指針や道標のように。
 4th アルバムとなるこの “Too Many Voices” は、タイトルが示す通り、歌声をより突き詰めた作品と捉えることが可能だ。
 特に、アルバムと同じタイトルを持つ M-9 “Too Many Voices” が極致に達している。比較的明瞭なヴォーカルラインに対し、トーンが近接したシンセサウンドが呼応する構図。人の声と機械の声が境界を消失させてつくりあげているポリフォニックな様相は圧巻で、アルバム単体としても、このところの一連の作品全体としても、ひとつの着地点と呼ぶにふさわしい。
 こうした構図は他の曲でも基底において共通している。必ずしも Alison のものとは限らないがアルバムのほとんどの曲でヴォーカル/ヴォイスが登場しており、人工的な音と絡んで響き合う。両者は対比的なものとしてではなく互いに溶け合うものとして扱われている。だからインスト曲のサウンドでも他の曲の歌声が想起され、音調が緩やかにつながっているものと感じさせられる。いつどこで声があらわれてもおかしくないという予期が全編で通底し、あたかも実の声と虚の声とが満ちているかのようでもある。“Too Many Voices” とは、そのように不在の声も含めた状況を指すと考えた方がよいのかもしれない。



特に銘記しておく曲
 M-3 “New Romantic”
 M-6 “Selfish”
 M-7 “On My Mind”
 M-9 “Too Many Voices”






Andy Stott

Information
Origin: Manchester, UK
Years active  : 2005 -

Links
Label: Modern Love  http://www.modern-love.co.uk/

ASIN:B01DOZPHDW







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