『キヌ六』『ベントラーベントラー』の野村亮馬が自費出版で出した最新作。おもしろかった。
ファンタジー要素のある産業革命期のような世界。ふたつの勢力が戦争している状況下で、密偵として敵の拠点に潜入する少年の話。
冷え切った冬の都市で静かに展開する物語だけど、最後の方は白熱した巨大ロボット戦闘になったりする。
物語表現
- 世界設定や用語には、短編に留まらないような広がりが感じられる。
- 登場人物の配置、設定概念、台詞にことごとく無駄がない。伏線の張り方も含め、短いボリュームの内に物語で必要な要素が密実に詰まっている。
物語内容
- 双方とも知略を尽くして勝利のために暗闘するところが良い。
相手の思惑が不明な中、その行動を推し量り裏をかこうと策動するその緊迫。互いに切り札を隠しながら決戦に臨み、そして等しく敗北と喪失に行き着く無情感。
- わりと人間観がハードな感じ。ポジションが全面的に肯定されるような人物が出てこない。
登場人物たちがおこなっているのは騙し合いと裏切り。その性格は強靱だが冷淡で目的合理主義。周辺人物が示す人情的な面も油断や杜撰と表裏のものとして描かれるし、一般にフィクションのテーマで人間の美質として扱われるようなものが表現されない。
なりふりかまわず相手を追い落として生き抜こうと必死で、決してわかりあえることなどない両陣営。
- だからこそ、食事をめぐる一瞬のやり取りや、最後の苦渋を持った視線の交錯に、とても染みるものがある。