::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

 [ABOUT LJU]
 [music log INDEX] 
 

 “リトルウィッチアカデミア”










 2013年のアニメミライ版・2015年の劇場版に続いて制作されたテレビシリーズ全25話。
 とても前向きで心あたたまる内容、全年齢的な質の高さがある。
 通して見たとき多少とっちらかったところもなくはなかったけど、全体としては、放送前に期待していた通りの水準になっていたと評価している。

 やはり主人公のキャラクター造形の魅力が大きい。
 憧れの存在を追い続ける一途さ、不屈で楽観的・積極的な性格。昔のアニメや漫画に見られたような主人公像。物語やキャラクター設定が複雑化・細分化した現在では稀少とも言えるような。
 この人物造形で王道と言える物語に徹したことで、国内にとどまらず普遍的に受け入れられるような作品につながったと思う。*1
 「魔女」という要素を扱ってはいるけれど、独特の文脈を持つ日本の魔法少女アニメの一部と見るよりは、イギリスの児童文学におけるファンタジーの伝統*2に連なるものと捉えた方がしっくりくる。





テーマについて

 「飛ぶこと」がひとつのポイント。
 第2クールEDがよく表現しているように、夢の実現に対する古典的な隠喩。
 物語中では同時に、「代償」「喪失」といったことと絡めて描かれている。

  • アッコはシャリオのドリームフューエルスピリットで飛ぶ能力の可能性を奪われた。
  • シャリオはアッコをたすけるためにワガンディアの呪いをかぶり飛ぶ能力を喪失した。(クロワもシャリオに対して同様の過去がある)

 特に、アッコがホウキで飛ぶことができないという点は重要。
 本編中ずっとアッコはホウキで飛ぶことができず、最後にようやく少しだけ飛べるようになる。半人前の魔女から、一人前の魔女への一歩。
 しかし、なぜ最後の最後まで飛べないままなのか。たとえば『まどか☆マギカ』でも主人公はなかなか魔女にならず最後にようやく魔女になったけれど、これと同じようなものと捉えるべきことなのかどうか。
 『まどか☆マギカ』は物語全体が、まどかが魔女になることで収束するようにつくられている。一方、『リトルウィッチアカデミア』の場合は、アッコが飛べるようになることは物語上直接の展開には関わっていない。この物語を一文で要約する場合、「アッコが飛べるようになる」というよりも、「アッコがその性格を貫き通す」と言った方が妥当だ。

 最後に飛べることができたというのは、アッコにとってひとつの成長ではあるけれど、この作品はかならずしも成長そのものを讃えるつくりにはなっていなかったと思う。
 そもそも、アッコはこの物語の中で成長してると言えるのだろうか。……いや、魔法技能的にはもちろん成長してるし、アーシュラ先生やクラスメイトたちとの交流の中で人格的に成長している面もあるけれど、アッコの性格は最初の時点からまったく変わらず、最後まで中核にある不動の本質として据えられている。成長はアッコのこの気質から派生的に獲得されるもののようにも見える。テーマ構成として中心にあるのはアッコの信念であり、物語全体を通してその肯定が描かれている。
 では、アッコはなぜ飛べないのか。
 アッコは落ちこぼれと言われているけれど、でも、変身魔法とか、徐々に使えるようになっているものもある。そのなかで飛行魔法だけはずっと使えないまま。「飛べないこと」は、アッコにとって、目的に対する壁を最も大きく象徴している。
 逆説的な言い方をすると、信念が続くためには、障害がすべて除かれて目的が達成されてしまうわけにはいかない。アッコがずっと飛べないままでいるのは、信念を持続させるための障害として物語上必然的に要請されている…… とも言えるのかもしれない。


 アッコは自分では飛べないため、常に誰かと一緒に飛ぶ。つまり、欠如がつながりともなっている。
 最終話の戦闘でも、自分がたすけた伝説のホウキによって危機から救われる、というのが象徴的。ずっと飛べなかったけど最後にようやく飛べるようになって窮地を脱する……というのではなく、あくまでも自分以外との因果応報的な関係性の結果として物語の危機が克服される。単純に内発的な能力開花を称賛するような図式とはなっていない。
 最後に少しだけ飛べるようになるのも、日常のなかでのささやかな達成。物語上のカタルシスを得るものではないけれど、周囲からの祝福を受け取る構図。


 各作品のクライマックスにはシャイニィアルクのシーンが配置されている。
 アニメミライ版はひとりでシャイニィアルクを放ち、その次の『魔法仕掛けのパレード』だとロッテとスーシィとの協働、テレビアニメ版だとダイアナと一緒に。ひとりではなく誰かとともに射るようになっていくというのは良い描写だと思う。




その他

 2クール目のOPとEDが曲と絵の表現が良かった。
 EDは1・2クールともに、抽象絵の動画がすばらしい。


関連



*1:リトルウィッチアカデミアアニメミライ版で最初につくられたとき海外での評判も高くて、それが Kickstarter での62万ドル獲得による『魔法仕掛けのパレード』制作へつながっている。

*2:ナルニアとか黒ねこの王子カーボネルとか。ハリー・ポッター・シリーズも基本的にはそこに含めてもよいとは思うけれど――






music log INDEX ::

A - B - C - D - E - F - G - H - I - J - K - L - M - N - O - P - Q - R - S - T - U - V - W - X - Y - Z - # - V.A.
“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell