シーンというものが多様化・細分化し、全体を包括的に言い表すことが難しくなってきていると常々感じる。
それでもあえて現在の音楽シーンを特徴付けるキーワードを抽出しようとした場合、まず思い浮かんでくるのは「混成」「移住」「越境」といった言葉。こうした語も結局のところ、何かを説明しているというより、シーンを単一の概念へ還元しづらく感じていることの裏表でもあったりする。特にイメージしているのは、大陸を超えてジャンルやミュージシャンが移動し、ハイブリッドに音楽が展開していく状況。具体例としては NON や Alexandre Francisco Diaphra といったあたりを踏まえている。
移動と混合という事態を引き起こす要因には、経済的・政治的・社会的なさまざまなレベルと並んで、技術的なものがあるだろう。つまりテクノロジーやインターネットがグローバル化を進展させ多文化を溶融させていくというよくある捉え方だ。既に当然視されて新味を失った言説とはいえ、最近のミュージシャンがおこなう活動のあり方を見るとあらためて実感することがある。Nídia の新譜もまた、そうした実践のひとつに数え上げることができる。
リスボン郊外のゲットーで生まれ育ち、フランスのボルドーに移り住んで作品制作をおこなうプロデューサー。
このアルバムはリスボンのクドゥーロという音楽ジャンルの流れを汲みながら、シカゴのフットワークにも通じる要素を備えた独特の音に行き着いている。短い曲に複雑なビートを詰め込んだ構成。トライバルなリズムをデジタルで表現したような。
もともとクドゥーロというのがアンゴラからポルトガルに渡りアフロビートやエレクトロニカを融合させたスタイルで、それがさらに、制作拠点を変えグローバルな影響下で変化した図式と言える。つまり Nídia のサウンドには地域を大きくまたいだ身体的・文化的な路程が内包されている。
ロック/ジャズ/ヒップホップ/テクノ等々、音楽ジャンルはいずれも起源と歴史に混合と移動を伴っている。本質としてはすべてハイブリッドで流浪的なわけだ。でも歴史のなかで一定程度の安定が果たされると、様式化する。ジャンルとして確立し受け入れられる。
一旦盤石となったそれらのスタイルはやがて細分化を進行させてきたが、現在、広範な流動性のもとでふたたび融合を加速し変容している、と見ることはできるだろうか。Nídia のアルバムからはそうした現在進行形のダイナミズムが感じられる。
移民や文化的混交が止められない事象としてある現下の世界で、一方には頑なに自閉へ向かう運動があり、他方にはこういったグローバル時代のクレオールとも言える結実がある。後者がいずれ世界を改善していくと予想するのは楽観的かもしれないが、どちらに希望を見たいかと言えば答は歴然としている。
Nídia
Information | |
Birth name | Nídia Sukulbembe |
Origin | Vale de Amoreira, Portugal |
Current Location | Bordeaux, France |
Links | |
Official | |
SoundCloud | https://soundcloud.com/nidiasukulbembe |
YouTube | https://www.youtube.com/user/nidiaminaj/videos |
https://twitter.com/sukulbembe | |
Label | |
PRÍNCIPE | https://principediscos.bandcamp.com/album/n-dia-m-n-dia-fudida |
https://principediscos.wordpress.com/2017/06/17/p021-nidia-nidia-e-ma-nidia-e-fudida/ |