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 かっぴー “左ききのエレン 7,8,9,10巻”






左ききのエレン(6): バンクシーのゲーム 左ききのエレン(7): 光一の現実 左ききのエレン(8): 物語の終わり 左ききのエレン(9): 左ききのエレン・前 左ききのエレン(10): 左ききのエレン・後







 完結したので感想をまとめておく。*1
 途中まで読んだ段階で書いた内容*2に、根本的な意味で付け加えるものはない。
 ラストとそれに至る過程は期待通りに完璧だった。


 台詞内容や物語展開、伏線回収といったところのクオリティの高さ、あるいは構図やコマ割りで見られる工夫といったような当初から備わっていた良さは、話数が進むに連れてより深みを増している。基本的な絵の技量についてはやはり触れないわけにはいかないところだけど、それも序盤と比べると明らかに洗練されたものになっている。
 この漫画、おそらく作者の中でまず描きたい絵が明確に浮かんでるものなんだろうなというのは全編どこを見てもはっきり感じるところ。問題はそれを漫画として具現化するときにどこまで手を入れるか、つまり仕上がりの段階の話。ただ、この絵でも充分に伝わってくるわけだし、そこを今以上に求める必要もないのでは……と思わないこともない。今、ジャンプ+で別の漫画家により絵を描き直された再連載が始まっているんだけど、自分としてはもうこの原作の絵だけで全然満足している。


 終盤に向けた構成として、ある特定の日時に向けたカウントダウンが折に触れて示され、そこに向かってすべてが収束するように組み立てられているというのが大きな特徴。あらかじめよく考えられた計画に沿って描かれた物語だということが、ここからも感じられる。
 予告された日時が皆既月食を指しているということは、最終巻で実際に訪れるまでわからない。これは主人公光一にとっての極致点。一方、もうひとり別の重要人物であるあかりにとっての究極の瞬間も、そこからかぎりなく近いところに位置している。時間的に若干ずれながらふたつの極点があって、それらを挟んで全体のクライマックスがあるという構成。そして物語は、この特別な瞬間を超えてまた時を進めていく、というかたちで描かれる。
 8巻末尾p299から始まる一連のことばが作品全体のテーマを凝縮した部分であるわけだけど、その前にあるあかりのモノローグ、

今日燃え尽きる事が天命だとしても―― 私は従わない
だって決めるのは 常に私なんだから


 ということばも、実はこれと重なり合うものになっている。
 天才と凡人というこの作品の基盤のような対比のなかで、あかりは天才側にいるんだけど、でもこのことばは凡人側から見た景色にも当てはめることができて、p299以降のフレーズにも劣らない強くポジティブなメッセージとして受け取ることができる。
 前後するエレン/さゆり/ルーシーのハグも、これを別の側面から補うように読者へ届けられ、つまるところ、あらゆる画角で万感の思いあふれる大団円が訪れるということ。
 精緻に計画され、結果として過不足ない表現によって、適度な長さできれいに完結した漫画。






6〜10巻でラスト以外の心に残ったシーンのメモ

  • 10巻
    • “絶頂点”
  • 9巻
    • ブランディングのオリエン
    • ウィーク・デイの中黒を消すところ(これがまさしく広告クリエイターの仕事だということが示されている)
    • オーディションでのさちよの舵取り
    • 「一番幸せだった時を思い出すように」
  • 8巻
    • C.A.T発足シーン
  • 7巻
    • 甘い夢よりも痺れる現実
    • 線を引くシーン
    • 番外編『コピーライターのフレーム』
  • 6巻
    • 空が青くなるより速く――

……と書き出してみたけど、実際はもっとある。たぶんどの回もだいたい好きなシーンがある。






 

*1: とはいえ「第一部」ということではあるらしいが。

*2: http://d.hatena.ne.jp/LJU/20170416/p1






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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell