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ジョン・サール “社会的世界の制作”



“Making the Social World: The Structure of Human Civilization
 2010
 John R. Searle
 ISBN:4326154551


社会的世界の制作: 人間文明の構造

社会的世界の制作: 人間文明の構造


 概要

 言語哲学分析哲学を長く牽引してきたサールが、「社会」を対象として書いた論考。1995年の『社会的現実の構成』に続くもので、社会の制度的事実について考察している。この一連の探求をサールは「社会的存在論」と呼んでいる。
 制度的事実というのは、「○○はアメリカ大統領である」「私が手に持っている紙片は20ドル紙幣である」というような、人間の主観的態度によって生み出された事実のこと。これらは物理学的に扱えるような対象物とは違うが、しかし社会における客観的で明らかな事実であることはまちがいない。こうしたタイプの事実はどのように説明することができるのか。
 社会的存在論は、制度的事実がどのように創出され維持されているのかを説明しようとする試み。

 ここでサールがとっている態度は、制度的事実というものを物理学的事実と切り離したものとしては扱わないということ。制度的事実についての説明は、あくまでも世界についての物理学的な基礎事実と矛盾しないことが目指される。
 本書において世界の基礎的事実と社会のレベルでの事実とをつなぐ道筋は、以下のように辿られる。
  物理学→生物学→神経生物学→志向性→集合的志向性→言語→社会


 基礎概念

  • 制度的事実:構成的規則の体系である制度によって可能となる。
  • 構成的規則:統制の対象となる行動の可能性それ自体を創出する規則。ex. チェスのルール
  • 地位機能宣言:「〜とみなされる」という形式をとる構成的規則。集合的承認を要する。権利を有することの表象によって権利が創出される。→義務論的権力
  • 宣言という発話行為:特定の事実の存在を言語的に表象することでその事実そのものが創出されるという操作。
  • 義務論的権力:願望独立的な行為理由を提供する。このことにより制度は、制約だけでなく、制度なしではありえなかったような莫大な可能性を創出する。


 内容メモ

志向性
心に備わる性質。脳・神経系の自然過程は、論理的な意味論的性質、つまり真理条件などの充足条件やその他の論理的関係を有している。志向性は、こうした特殊な論理的性格を持つ生物学的現象。

志向性に関わる重要なポイントは、「適合方向」という概念。
志向的状態が充足されるための責任の所在が志向的状態と世界のどちらにあるのかを示したのが適合方向というもの。
本書では言語というものを前言語的な志向性の延長に位置付けており、志向性にとっての適合方向と同じことが発話行為においても言える。(発話内容の充足の責任が発話行為と世界のどちらにあるのか)

志向性の場合、
    • 「信念」:充足を得るにあたりその表象内容を所与の世界状態と合致させなければならない。〈心→世界〉
    • 「願望」:充足を得るにあたりその表象内容を所与として世界状態の方がそれと合致されなければならない。〈世界→心〉
発話行為の場合、
    • 「陳述」:充足を得るにあたりその表象内容を所与の世界状態と合致させなければならない。〈言語→世界〉
    • 「約束」:充足を得るにあたりその表象内容を所与として世界状態の方がそれと合致されなければならない。〈世界→言語〉
    • 「宣言」:両方向の適合方向を持つ。〈言語→世界〉〈世界→言語〉
この「宣言」というタイプは、言語にはあるが前言語的思考(志向的状態)にはないもので、このタイプこそが制度的事実の創出に関わっている。

宣言
本書の主張は、
    • あらゆる制度的事実は、「宣言」という発話行為によって創出される
というもの。

もう少し具体的には、
    • 制度的事実が存在するためには制度(=構成的規則の体系)が不可欠。
    • 構成的規則は「XはCにおいてYとみなされる」という形式をとる。この地位機能宣言という発話行為によって、地位機能Yが存在するという事態が創出される。
    • 地位機能が作用するには、それが複数の人間に承認されること=集合的承認が必要。集合的承認の前提として集合的志向性がある。
 
集合的志向性
個人的志向性:「私は信じている」「私は望んでいる」
集合的志向性:「我々は〜している」「我々は〜することを意図している」「我々は〜を信じている」

地位機能宣言は単独の人間ではなく複数の人間による集合的承認によって成立する。集合的承認の前提に集合的志向性がある。

集合的行動のなかで各個人はそれぞれ自分の個人的寄与を手段として共通の目標を達成しようと試みているが、集合的行動への参与が可能であるためには、他人もそれぞれ各自の寄与をなし協同しているという信念/想定が前提として不可欠である。
制度的構造の内部で協同行為が成立するにあたっては、それに先行してその制度についての集合的な承認・受容が存在していなければならない。
たとえば貨幣制度の場合、それが集合的に承認されていることを構成するのは、各人がそれぞれ貨幣制度を承認しており、かつ他人たちも貨幣制度を承認しているだろうとの相互的知識が全員の間で共有されているという事実による。

言語による事態の創出
事態を記述するのに用いられる発話行為それ自体が、そもそも当の事態を創出している。
「〜は〜とみなされる」という地位機能宣言によって義務が創出される。

二重の適合方向を有する「宣言」
  • ex.「これは私の家だ」
      • 自分こそがこの家に対する権利を有することを表象(〈言語→世界〉の適合方向)
      • この表象が他の人々に受容されたら、集合的承認によって初めて存在するようになる権利が創出される(〈世界→言語〉の適合方向)
  • この両者は相互依存関係にある。(この権利は、権利を有することが表象されたことによって初めて創出された)

特定の事実の存在を言語的に表象することでその事実そのものが創出されるというこの操作は、あらゆる制度的事実の基礎となる。
言語は社会的関係に義務論を導入し、義務論的構造を持った制度的事実を創出する。

義務論的権力
あらゆる制度において、制度的事実はわれわれに義務論的権力を与える。
義務論的権力は、 願望独立的な行為理由を与える。願望独立的な行為理由は、願望の根拠を合理的に提供する。このことにより制度は、制約だけでなく、制度なしではありえなかったような莫大な可能性を創出する。



 感想


  • がんばって読めば理解できる日本語になっている翻訳書というのはほんとうに得がたいものだと思う。

  • 同時期に同じ出版社から刊行された北田暁大『社会制作の方法』とつくづくまぎらわしいタイトル……。同じように青色基調の体裁だし。










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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell