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“閃光のハサウェイ”



閃光のハサウェイ


“閃光のハサウェイ”
 監督 : 村瀬修功
 2021


 一応ひととおり押さえつつもそれほど思い入れを持っていないのが自分にとってのガンダムシリーズなのだけど、この “閃光のハサウェイ” は別格に良かった。評判が高いというのも頷ける。

 何より語るべきは、描写が精緻であること。今後のシリーズでこのレベルに達していなかったら色褪せてしまってとても見ていられなくなのでは、と思わせる決定的な閾がつくられてしまった気がする。単に3DCGでモビルスーツが動かされている、というだけにとどまっていなくて、巨大なモビルスーツが都市やその上空で戦うときの存在感、それを非常に丁寧に描写しようという、全般的な演出がとても良い。
 多用されるのは人間の視点。モビルスーツの戦闘が空中から地上へと移り、巨体同士の戦闘が街区からヒューマンスケールで捉えられる。人の目からは、モビルスーツの一挙一動がことごとく重みを持ち、巻き添えを受けかねない危険の塊。ビーム兵器はただの光線に終わらず、装甲で飛散すると地上に溶岩のごとくほとばしり、灼熱となって人の行く手を阻む。こうした視点で戦闘を描くことによって、混乱する街路の避難者のなか、ビーム攻撃に反応して咄嗟に目と耳を塞ぐゲリラ兵の軍事作戦慣れした行動も効いてくる。
 95分の上映時間の内、アクションシーンはそれほど長くはないのだけど、それぞれの密度が半端なく濃厚。また、アクションシーン以外のところも、風景や人物の描写が細かく、いちいち見入ってしまう。東南アジアの街並みや高級ホテルの雰囲気など。ディテールは精細だけど、基本的に現代に寄せていて、ものすごく未来のデザインにしていないところがむしろ良い。
 モビルスーツ戦闘も、これまでのガンダムシリーズのどれにもなかったようなあたらしい描かれ方をしている。3DCGで描かれるコクピット内部、パイロットの視点位置に応じて全天周モニタと操縦機器類の微妙なずれが細かく描かれることで、動きひとつひとつに臨場感が備わっている。表示される数値類も、単に雰囲気で書いているのではなくて、実際の高度や距離に合ったものを提示しているのだろうと思わせるものがある。
 大気圏内が主な舞台となっているところも大きな特徴。従来型MSが搬送機に搭乗し降下するなかでスラスターによって多少の空中機動性を得ているのに対して、新型機たちはミノフスキー・フライトで好きなように飛び回り、その加速感覚と画面の追尾がとても気持ちいい。

 緻密なディテールに沿うように、人物にも成熟したキャラクター造形が与えられている。
 なかでもヒロインであるギギ・アンダルシアは、蠱惑的というのはこういうものだという演出を詰め込めるだけ詰め込んでできたようなキャラクター。実写と違い制作者が意図通りに絵を描ける、というアニメの特長が余すところなく活かされている。しかしそれを完成させているのは声優(上田麗奈)の演技でもある。サブキャラクターでも、限られた台詞数のなかでガウマンの津田健次郎が光っている。


 アニメとしての描写全般と比べて、では物語自体がどうなのかというと、それほど深みは感じられなかったの実態。人間ドラマとして切り取ってみると、ごく単純な構図、取り立てて複雑な心情や目をみはる機微もない。
 ただ、この作品にそういう点での深みを求める必要はまったくないと思う。
 SFロボットアニメを見るとき、人間ドラマが中心にあると考えると、作品のポイントを外すことになる。なぜ単なる人間ドラマではなくロボットが登場する物語でなければならないのか。この作品からガンダムやモビルスーツ、あるいは近未来SFといった要素を剥ぎ取ったら何が残るか。
 メインキャラクターたちが繰り広げるドラマが作品の主軸にあるのではなくて、あくまでもロボットが主要素として物語を構成しており、人間ドラマは付随的なものだと捉えること。これはSFやミステリーといったジャンルに共通して言えることでもある。

 特にガンダムUCシリーズでは、量産機でおこなわれる戦争のなかでガンダムが主役機として特別な意味付けを常に与えられている。
 一機で戦局を左右し得る兵器。保有兵器が少なくてもガンダムを持つことだけでレジスタンスの活動が成り立つ、というように。
 本作品では、大気圏内での従来型MSの機動力とミノフスキー・フライトによる新型機の機動力の対比にも重要性がある。鈍重な空中機動しかできないメッサーやグスタフ・カールに対し、なめらかで自由に加減速し縦横に飛行するペーネロペー。そしてそれと同等の存在としてのΞ(クスィー)ガンダム。
 他のMSよりも圧倒的な自由、圧倒的な戦闘力を持つ二機のMS。これが本作品での主たる構図であって、体制による抑圧とそれに対する抵抗活動、そしてハサウェイ、ケネス、ギギの人間関係といったことは付随的な彩りだ。
 精細で濃密、それでいて躍動する高速の機動描写、これを存分に堪能することこそが本作品の意義にある。
 逆襲のシャアでのクライマックス、ハサウェイとクェスの因縁、あるいはミノフスキー・フライトやビームバリアーといったテクノロジーの進展、そうした過去とその推移がこの物語に結びついているのは確かなのだけど、“閃光のハサウェイ” を観るに当たってそれらはすべて後景に退き、飛翔する二機だけが残される。




 






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―Angela Mitchell