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 Tortoise “The Catastrophist” (2016)



The Catastrophist






 7年振り、7thアルバム。
 スタイルはわりと変化に富んでいる方なんだけど、全体としては壮大というよりも穏やかな曲調が多い感じ。的確なテクニックによる隙のない音。それでいて、単に爽やかで聴きやすいというような曲ではなく、変化と刺激が備わっている。
 ヴォーカル・トラックが2曲あるのがひとつの特徴。Todd Rittman (ex-U.S. Maple) がヴォーカルの M-3 “Rock On” は1973年の有名なヒット曲のカバー。M-9 “Yonder Blue” はゆったりしたメロゥなトラックで、Georgia Hubley (Yo La Tengo) がヴォーカル。






 Tortoiseこそが〈ポストロック〉というジャンルを体現した存在であることに異を唱える人はいないだろう。逆に言えば、ポストロックとは何かという問いを Tortoise に触れずにおこなうことは難しい。
 ここでは、音楽ジャンルとはどのように語られるものかを考えてみたいと思う。


 ポストロックとはそもそもいかなるジャンルなのか。
 音楽ジャンルを明確に定義付けるのは何であれ難しいことだけど、ポストロックというものは殊更に漠然としていて広範に適用されがちな語だ。(それは主に「ポスト-」という接頭辞のせいかもしれない。既存のロックに代わる新しいスタイルは何でもこれで括れるように見えてしまうので)
 別冊ele-king『ポストロック・バトルフィールド(2015年9月・ISBN:4907276370での松村正人による佐々木敦・金子厚武インタビューではそういった「ポストロックとは何か」というテーマが包括的に語られていて、おもしろかった。佐々木敦によれば、「クリエイティヴな折衷主義」「エレクトロニクスの大胆な導入」「編集とポスト・プロダクション」が要件。一方、金子厚武は『ポストロック・ディスク・ガイド』(2015年6月・ISBN:4401641434を制作した際に「世の中的にそう呼ばれているもの」を選考基準としたと語っている。
 この「みんながそう呼んでいるもの」という区分は「定義」とは程遠いものではあるけれど、人々による概念の運用という観点は無視できないことでもある。実際、日常言語においてわたしたちは何らかの概念を特別に定義することなしに用いることができている。意味を厳格に定めることは難しいけど、でもその言葉がどんな感じで用いられているのか、というのを説明するのは可能なことだ。前掲インタビュー内でも、この語を人々がどう使っているか、という見方で触れられているところが多々ある。

“「ポストロック=インスト」だと見なされていた時代はけっこう長かった気はします” (金子厚武)
“インストで曲調がミニマルで曲が長いバンドがオーガニック=ポストロックといわれるようになったようなような気がするね” 佐々木敦

 自分としても「インスト・長い」という要素はポストロックの大きな部分を占めると思える。だけど必要条件だとも言えない。たとえば Sigur Rós はインストではないけど明らかにポストロックに括るべきものだと思うし。では、展開が凝っててメッセージやテーマ性が薄い、というのが特徴? ……いや、そうした要素に合致しなくてもポストロックと言えるような例はいくらでもある。接頭辞が持つ意味合いだって、やっぱり看過することはできないし。
 『ポストロック・ディスク・ガイド』でも、誰もが同意するであろう例から、必ずしもポストロックだとは言えないよなぁと思える例まで、さまざまなミュージシャン/グループが幅広く載せられている。そこにはおぼろげに共通項が見えなくもないけれど、すべてが不可欠に備える絶対的要素があるわけでもない。あるとすれば、AとB、BとCの間には共通項が見出せるけど、AとCの間には見出せない、といったようないわゆる家族的類似性。結局のところ、ジャンルとはそういった境界のゆるいものであり、「ポストロックとは何か」というのは開かれた問いということなのだろう。(このあたりはロバート・ステッカーの『分析美学入門』第5章「芸術とは何か」を念頭に考えている)
 しかしジャンルの概念というものが常に多数の具体例とともに想起されて運用されるものであるとして、Tortoise とはそのなかにあって不動の位置を保ち、必須に召喚される固有名であるといえる。「ポストロックとは何か」というのが開かれた問いだとしても、その問いはいつだって Tortoise のまわりをめぐって為されてきた。そういう意味では、常に参照される Tortoise が単純に還元されがたく充分な複雑さを備えたグループであったことは、ジャンル概念に関わる問いを即座に着地させることなく開かれたままにする効能を持っていたかもしれない。
 いずれにせよ厳密な定義というのは困難だし、実際の言語運用からみて不可能なことだ。たとえば「折衷」「ポスト・プロダクション」を定義とした場合、Steely Dan がまさに当てはまってくるけど、誰も Steely Dan をポストロックとは呼ばないだろう。そのように「何がポストロックで何がそうでないのか」という記述/理解をわれわれは自然におこなっている。それは別に、線引きがいつも絶対的に画定しているということを意味しない。Steely Dan をポストロックと呼ぶ人もなかにはいるだろうし、Tortoise をポストロックから外す人だってもしかしたらいるかもしれない。概念は定義によって適用されるようなものではなく、社会におけるさまざまな実践での使用を通じそのなかに形成されてくるものである。そうした実践にはもちろん「定義」をめぐるコミュニケーションも含まれるし、「○○○はもはや□□□ではない。○○○は○○○でしかないのだ」というように固有名をジャンル名から切り離すような否定文的記述だって含まれる。そしてそのような総体が、概念をかたちづくっていくわけだ。
 であればこそ、「〜とは何か」という問いがおこなわれ続けていることこそはそのジャンルが健在であると示すことに他ならない。人々がそれについて語ることがなければその概念は存在しないのだから。







Tortoise

Information
Origin: Chicago, US
Years active  : 1990 -
Current members   
  Dan Bitney: Bass, Guitar, Percussion, Vibes, Marimba, Keyboards, Baritone Saxophone
  Doug McCombs: Bass, Bass 6, Guitar, Lap Steel
  Jeff Parker: Guitar, Bass
  John Herndon: Drums, Vibes, Keyboards, Sequencing
  John McEntire: Drums, Modular Synthesizer, Ring Modulator Guitar, Electric Harpsichord, Keyboards

Links
Officialhttp://www.trts.com
  YouTube  http://www.youtube.com/user/thrilljockeyrecords/videos?query=tortoise
  Twitterhttp://www.twitter.com/TRTS
LabelThrill Jockey  http://www.thrilljockey.com/artists/tortoise

ASIN:B00W3H158O







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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell