リスボンで活動するギニアビサウ出身のミュージシャンによる1stアルバム。ゲストミュージシャンとのライヴ演奏にポルトガル語のラップ/ポエトリーを乗せてつくった楽曲。
ラップというよりほとんどリーディングで、抑制的な語りが乾いたトラックの上を流れていく。強めのビートが一貫しているけれども必ずしもダンサブルとは言えず、どちらかというと映画のように情景を展開していくタイプ。ギニアビサウの gumbe という音楽スタイルからの影響なども含め、ヒップホップ〜ジャズ〜ワールドミュージックといったさまざまな音楽が折衷的に組み合わさってできている。
曲やビートのアイデアを練るためにターンテーブルとサンプラーをリスボンの街頭に携行して屋外で演奏するということをおこなっており、これをもとに映像作家 Manuel Lino と現代美術作家 Fidel Evora と協働して映像記録が制作されている。
良いアルバムだと思うのだけれど、インタビュー記事などもいまのところ見当たらなくて、入手できる情報が少ない。でもリリックが充分雄弁に語っていることもある。ポルトガル語がわからなくても、英訳字幕入りのyoutube動画がいくつかあるので詞の内容を把握できる。
M-4 “Nota de Autor (Author's Note)” では、自分の名前、ポルトガル語、アフリカンとしてのアイデンティティといったことのほか、ポルトガルで音楽活動をおこなうことについて語られている。公式プロフィールで本人も強調しているとおり*1 緊縮財政下のポルトガルでは、文化・芸術活動はひときわ厳しい状況に置かれている。2011年には文化省が廃止され文化予算は大幅に縮小、アーティストの国外脱出が増加した*2。現在ポルトガルの経済状況はいくばくか改善の兆しを見せており、2015年の政権交代を経て文化省も復活してはいるものの、アーティストにとって未だ困難な環境であることに変わりない*3。世界最貧国のひとつであるギニアビサウからポルトガルに渡り、しかしそこもまた経済苦境に見舞われる地だったという来歴。英語圏ではないため馴染みなく感じてしまう音楽だけど、移民・緊縮財政といったトピックはヨーロッパで今まさに進行し世界的に報道されるような主要課題そのものであって、その意味でこの “Blackbook” の表現内容はエキゾチックで周縁的というよりむしろ国際情勢の渦中そのものに直結している。
ポルトガル語話者である Diaphra は、リオ・デ・ジャネイロでのポエトリー・スラム・コンテストにポルトガル代表として参加し優勝した経験も持っているが、アフリカ〜ヨーロッパ〜南アメリカという三大陸に渡る活動およびアイデンティティの横断は、アメリカの主流ヒップホップでは見られない要素と言えるかもしれない。
Alexandre Francisco Diaphra
Information
Birth name | : Alexandre Francisco |
Origin | : Guinea-Bissau |
Current Location | : Lisbon, Portugal |
Links
Label | : Mental Groove Records (Bazzerk) http://shop.mentalgroove.ch/album/diaphras-blackbook-of-the-beats |
*1:
Alexandre Francisco Diaphra Bio https://www.facebook.com/diaphra/info/?tab=page_info
*2:
cf. Portuguese culture feels the pinch as arts budget slashed - BBC News http://www.bbc.com/news/world-europe-23248062
*3:
ポルトガルにかぎらずEU諸国ではどこも大なり小なり文化予算削減がおこなわれているが、一方で域内全体での文化助成の動きも出てきている。
cf. Creative Europe http://ec.europa.eu/programmes/creative-europe/