![Arca [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (XLCDJ834)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/61shj1J5M7L._SL160_.jpg "Arca [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (XLCDJ834)")
XL Recordings からのリリースとなる 3rd アルバム。
大きく話題になりそうなポイントは、本人のヴォーカルが全面的に用いられているところ。
これまで Björk や FKA twigs、Kanye West などの楽曲制作を手がけていることもあり、Arca のサウンドとヴォーカルの相性がどのようなものかは見当がつく。しかし Arca 本人がヴォーカルをおこなうというのは、サウンドの変化のみならず制作戦略上も重要な転換点となる気がしている。
Arca の最大の特徴は、音とヴィジュアルの一貫したイメージ･コンセプトにある。
絢爛･耽美を香らせるサウンドを補完するヴィジュアルのモチーフは、「奇形性」と「自己露出」という二点に集約されるだろう。「奇形性」も最終的には「自己」というテーマに回収されるものだとは思うが、少なくとも表象としては本人と明らかに異なるキャラクターとして提示されている。
これらのテーマは共通して、「身体」という要素をフィーチャーして表されてきた。身体性はヴィジュアルのテイストであるとともに、サウンドから受け取られるイメージにも関連している。
Arca の楽曲は決してストレートにダンサブルなものではない。しかし BPM の高低やビートの有無によらず、どの曲も舞踏的な身体のイメージを想起させる。実際、PV でも抽象的な映像より具象的な身体をフィーチャーしたものが多く見られる。1st アルバム “Xen” で強い印象を残した “Thievery” の PV は、裸身のダンサーが鮮烈な明暗のなか踊る映像だった。“Sad bitch” はノンビートだが同じダンサーが登場し、怪しくも幽遠に舞う。こうしたイメージはコラボレーターの Jesse Kanda によるところも大きいにせよ、必ずしも動的で生命感あふれるものではないトラックも含め Arca の音そのものに「身体」との明らかな親和性があることは否めない。
ところが、セルフタイトルとなる今度のアルバムでは、ヴォーカルという要素の導入によってこうした図式が変わることとなる。
ヴォーカルは疑いようもなく身体性そのもの。音からの暗示や隠喩ではなく、そこに身体があることがダイレクトに感じ取れる要素だ。わかりやすいクラブサウンドによらずして「舞踏する身体」を感じさせる音づくりをおこなってきた従来と比べると、大きな変化と言わざるを得ない。
さらに、このヴォーカルが本人によるものであることも大きな意味を持っている。
音楽においてヴォーカルというものは、「本人であること」のこの上ない顕示だ。作風や演奏の癖などといったものよりずっと強く、誰でもすぐ認知できるアイデンティティ。
PV やその他のヴィジュアルで今まで本人が出ているものはいろいろあったが、音それ自体の中に「本人」が直接登場することはなかった。“Xen” のときのPVは本人のものと女性ダンサーのもので半々程度、“Mutant” ではPVはほとんど展開されておらず、今回のアルバムでは現在のところ本人が登場したものしかない。それに加えて今回ヴォーカリストとして作品内にも姿を見せたことは、Arca の自己露出が加速したと捉えるべきなのだろうか…？
そもそも Arca の自己顕示志向はナルシシズムというより、固有の境遇から採られた生存手段の延長にあると考えているのだが、今回のヴォーカル導入もそうした切実性が強まった結果と解したい。これまで身体性や顕名性を音に直接反映させることなくそうしたものを示してきた方法からすると、今回の変化はちょっとしたことのようで決定的な一歩のように思える。サウンドを自己のキャラクターとして、より完成させていくという表明と言えるかもしれない。
ヴォーカルが入ることによる見過ごせない点がもうひとつある。それは、歌詞という要素だ。歌詞が語られることにより、サウンドは聴き取る（解釈される）対象にもならざるを得なくなってくる。スペイン語で歌われており容易に意味を掴めるものではないが、既にいくつかのレビューで紹介されているものを見ると、特に意外性のある内容ではなく、これまでのイメージ戦略の一貫性からは外れていないようだ。こうした点からも、あらなた境地の開拓というより、これまでの世界の強化という方向であると捉えられる。
Arca
Information
| Birth name | Alejandro Ghersi |
| Origin | Caracas, Venezuela |
| Born | 1990 |
| Years active | 2012 - |
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