ラッパーのコモン、ピアニストのロバート・グラスパー、ドラマーのカリーム・リギンスが結成したコレクティヴによる Amazon 限定リリースのアルバム。
この形態での活動は、2016年にオバマ政権時のホワイトハウスで開かれたイベントでのセッションから始まっているが*1、グラスパーとリギンスは2016年のコモンのアルバム “Black America Again” でも プロデューサーとして加わっていたし、2人ともそれ以前からコラボレーターとしてコモンとは長い付き合いがある。
メンバー構成からわかるとおり、全面的にジャズ×ヒップホップといった内容。サンプリングを用いず生楽器のみでつくられている。レコーディングもほとんどジャム・セッションのようなかたちでおこなわれたらしい*2。
重く溜めの効かせたビートと繊細なハイハットのドラムが特にすばらしく、圧倒的な存在感がある。抑えたテイストのジャズ・サウンド、深みがあり落ち着いたラップとリリック。経歴の長いミュージシャン3人による息の合ったアルバムとして、全体的に円熟の風格が漂っている。なかでも M-8 “No Apologies” は、複雑なリズムとローズ・ピアノ、畳みかけるようなラップが絡み合い刺激に満ちたトラック。
このアルバムには大統領選直前にリリースされた “Black America Again” ほどの切迫的な政治性はない。あれから1年半を経過した期間をあらためて振り返りつつ “Blackness” に向き合ったという感じは受ける。とはいえ “Meditation” ではワシントンDCでアフリカ系・中南米系の多数の少女が失踪した事件に触れているなど、社会問題へのコミットメントは変わらず維持されている。コモンとしては、あからさまな対決姿勢よりも解決方法の模索と前進を強調しているようだ*3。
“Thought I was gonna fly when Obama became the king” (“Let Go”) なんてはっきり回顧的なリリックもあるかと思うと、“Had our first Black prez, I'ma be the sequel” (“Black Kennedy”) など、一瞬動揺してしまうような部分もあったりする(そんなストレートな意味で書いているところではないとは思うが……)。どちらかというとアルバム冒頭曲 “Meditation” での “A blackness that isn't defined by a time and space.” というあたりに全体の主張が集約されているかもしれない。
終盤のハイライトである “Optimistic” は、Sounds Of Blackness による1991年のゴスペル・ソングをリメイクしブランディをフィーチャーしたもの。PVでは、ミシシッピ州公民権運動のアクティヴィストたちを登場させている。
タイトル通りの非常に前向きな歌詞で、端的に良い曲だと思う。リギンスも、小さい頃からこの曲に親しんでいて、レコーディング時には3人とも同じ思いで自然にカヴァー曲制作が決まっていったとインタビューで語っている。
比較的コンシャスな曲とともにこういう曲があると、アルバムとしてはバランス良く締まるところがある。
Although it seems you never win, you will always pass the test.
As long as you keep your head to the sky, you can win.
August Greene
Information | |
Years active | 2018 - |
Current members | |
Common | Rap |
Robert Glasper | Piano |
Karriem Riggins | Drums |
*1:Common At The White House: NPR Music Tiny Desk Concert - YouTube
*2:Karriem Riggins Talks August Greene, J Dilla, And Wanting To Form A Supergroup With D'Angelo And Chaka Khan - okayplayer interview
*3:Common on his jazz-rap group August Greene's 'inspiring' debut - Entertainment Weekly interview