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The Caretaker “Everywhere At The End Of Time” (2016-2019)



Everywhere at the End of Time [Analog] EVERYWHERE AT THE END OF TIME: STAGE 2 [LP] [Analog] EVERYWHERE AT THE END OF TIME: STAGE 3 [LP] [Analog] Everywhere At The End Of Time: Stage 4 [Analog] Everywhere At The End Of Time: Stage 5 [Analog] Everywhere at the End of Time: Stage 6 [Analog]


 概要

 アンビエント・ミュージックが行き着いたひとつの極北と言っていいと思う。

 The Caretaker はマンチェスター出身のジェームス・カービーによるプロジェクトで、「記憶」をテーマとしたアンビエント/ノイズの作品をつくり続けている。
 “Everywhere at the end of time” は 6枚のアルバムから成るシリーズ。2016年のステージ1から2019年のステージ6まで3年かけて完結したもので、全50曲・計6時間31分の作品。まとまった音源は Bandcamp から入手できる。https://thecaretaker.bandcamp.com/album/everywhere-at-the-end-of-time


 減退過程

 この長大な作品は、全体を通して認知症の進行を表現したものだと説明されている。
 記憶と認識が緩やかに減退し、終極へと向かう経路。
 全50曲をかけて、メロディをもった曲が次第にノイズを増していって、やがて何もかも壊れていく──というような過程が描かれている。
 どこか好きなトラックから聴いていけばいいという音楽ではない。この作品を理解するには、どうあっても最初から順に聴いていって最後へたどり着かなければならない。

 ステージ1は、1930年代のジャズ〜ラウンジ・ミュージックに微かなノイズが混ざるというつくりになっている。
 穏やかでどこか甘美なサウンドは、満ち足りた若年期の日々を思わせる。被せられたノイズはそのままアナログ・レコードのノイズのようでもあって、前世紀メディアの痕跡として「過去」を想起させるし、あるいは、記憶が劣化していくことを示したものとも受け取れる。
 ステージ2・ステージ3と進むにつれて、徐々にノイズは増していき、強くリバーブがかかるようになってくる。やがて音像のなかでのバランスは逆転し、過去を醸し出すラウンジ・ミュージックはノイズの背後に薄れていく。ところどころでメロディが「正常」に戻るような局面もあるけれど、全体としてははっきり不可逆的に進む。
 ステージ4・5では相当に「症状」が進行し、完全なノイズ・ミュージックとなっていく。漸進的に体験していくと違和感を覚えないけど、あらためて比較して聴いてみると、最初の方の曲とのあまりの落差にけっこう衝撃を受ける。曲の長さもここからは軒並み20分超に。ゆるやかに追っているからこそ聴けるものの、いきなりこのあたりの純粋なノイズ曲から聴き始めていたら抵抗あったかもしれない。最初の「まともな状態」のメロディアスな楽曲があったから後半のノイズが許容できる面がある。
 原型を留めぬメロディの残骸のなかに、しかしノイズとのわずかなトーンの差が感知できて、離散的なそれらを脳が拾ってメロディらしきものが認識されていく……というか、ノイズのなかのわずかな手がかりを脳がより合わせて、自分が最初の方で聴いたメロディが記憶から再現されているというような。
 こうしたところはほんとうに全体構成の妙だと思う。

 そしてたどり着く終極点。
 ステージ6後半では、ついにノイズも消え、広大な空間を感じさせるドローン・サウンドアンビエントが訪れる。虚無、というか、人を超越した深みというような域が。だがそれは、どこかやすらぎを感じさせるトーンのものでもある。
 突如それは途絶し、替わって現れるのは、レコードノイズの混ざったメロディと歌唱。
 ……6時間31分の行程を締めくくるのは、45秒ほどの純粋な空白。


 コニー・ウィリスが書いた『航路』というSF小説があるのだが、あの作品では、人間の生命活動が終わり意識が完全に消え去る直前に、限りなく濃密に凝縮された「死後」が現れる。
 "Everywhere At The End Of Time" がたどり着く空白は、『航路』が描いたあの極致にも似ている。
 最後の瞬間に、生の記憶すべてを使ってつくられた無限の時間。
 『航路』は小説として言葉を使ってこの無限を示したのだけど、"Everywhere At The End Of Time" は、同時的に音楽を聴いていくプロセスを通じて、これを追体験させる。絶対的な無と、その直前にある境地を。


 テキスト

 各曲のタイトルが非常に示唆的で、曲そのものをさらに補完している。
 たとえば、
  A1 “It's Just A Burning Memory”
  C5 “Surrendering To Despair”
  D1 “I Still Feel As Though I Am Me”
  F6 “An Empty Bliss Beyond This World”
 など。

 特にステージ6のタイトルはどれも印象深い。
  O1 “Confusion So Thick You Forget Forgetting”
  P1 “A Brutal Bliss Beyond This Empty Defeat”
  Q1 “Long Decline Is Over”
  R1 “Place In The World Fades Away”



The Caretaker
Information
  Birth name  James Leyland Kirby
  OriginManchester, UK
  Born1974
  Years active  1996 -
 
Links
  Bandcamp  https://thecaretaker.bandcamp.com/
  LabelHISTORY ALWAYS FAVOURS THE WINNERS
https://www.brainwashed.com/vvm/

ASIN:B01LXZTOFR, ASIN:B071QWF91V, ASIN:B0768NXJRB, ASIN:B07C5HNBTQ, ASIN:B07HSR2L4J, ASIN:6317788936







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“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell