::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

 [ABOUT LJU]
 [music log INDEX] 
 

 Karl Hyde “EDGELAND” (2013)



Edgeland [帯解説/ボーナストラック6曲収録/DVD付] (BRC366X)






 ぼくにとってイギリスあるいはロンドンという言葉は、何よりもまず音楽・デザイン・モダニズムといった事柄に強く結びついている。(だからイギリス・ロンドンの話題が出たとき、「アフタヌーン・ティーって憧れる…!」とか「イギリス紳士! 執事!」とか言われてもまったく共感はしません。)
 音楽にしてもデザインにしてもあるいはモダニズムにしても、それぞれ具体的に思い浮かぶ対象がいろいろあるけど、Underworld というのは、これらの要素をうまい具合に兼ね備えている。音楽分野に立ち位置を置きつつもデザインユニット Tomato と密接に関係し、そうした活動は基本的にモダニスティックな姿勢で為されている、といったように。だからといって Underworld が象徴的に特別な存在だとまでは言わないけど、でも、ロンドンという都市に対する彼らの視点には昔から殊更に親近感を持っている。
 
 Underworld の描くテーマは一貫して「都市生活」という語に要約できると思う。Karl Hyde が今回初めて出したこのソロ・アルバムでも、同じテーマを別のアプローチで手がけているような感じがある。
 リリースに当たって本人が語っているコメントは次のようなもの。

“For over twenty years, my love of cityscapes has grown and grown. The beauty of decay, tyre marks, crude graffiti, industrial noise, overheard conversations, epidemics of coffee bars and nights on the back seat being driven through cities by drivers who never sleep. A celebration of people’s idiosyncrasies, mapping out my journeys with the stories they tell, edgelands where city meets scrub, where ragged ponies grazed annexed fields and the air smells chemical.”
20年以上、ぼくのなかで都市風景への思いは募られる一方だった。
朽ち果てるものの美。刻まれたタイヤの痕、荒々しいグラフィティ、インダストリアルな騒音、漏れ聞こえる話し声、コーヒーショップの盛衰、そして、眠らぬドライバーたちが導く車内でいくつもの街を過ぎる夜。
人々それぞれの固有性を賛美すること。彼らの物語がぼくの旅程を成し、都市と自然が接する 〈辺縁〉 エッジランドを描き出す。そこでは貧相なポニーが造成地の草を食み、空気には化学物質の臭いが漂うのだ。

 ここには Karl Hyde の抱く「都市像」というものが明確に表れていて、もうこのテキストこそが Underworld の音楽を体現している、と言ってもいいぐらい。自分なりに言い換えると、人工物の醜を美として受け取る感性、というような。
 このことはアルバム本編よりも、Deluxe Edition に付属しているDVD “The Outer Edges” を見るとよく伝わってくる。
 Kieran Evans が監督するこの映像作品は、70分もの長さがあり、もはやミュージック・ビデオではなくちょっとした長編ドキュメンタリーといった代物。一般の人々へのインタビューと Karl のナレーション、都市風景のフッテージから構成され、はっきり言ってけっこう退屈な内容ではあるんだけど、Underworld / Karl Hyde の音楽を知る上ではとても重要、そして「都市的なるもの」一般について考えるにあたっても価値がある。

 舞台はロンドン東部からエセックスにかけての地域。A13幹線に沿ってテムズ川の河口へ至る行程。


 同じ「都市」をテーマとして扱っていても Underworld とソロとの微妙な違いがあって、それがこの地理範囲に表れている。前者のイメージは 都心 セントラルから 近郊 サバービア、でも後者では  郊外  アウトスカーツに光が当たっている。より外側に視点が向けられていて、ということはつまり、より自然と対比させて都市を語るアプローチだとも言える。
 描かれている情景は、林立するハイウェイの橋脚、錆びた護岸壁を伴う運河、夕闇に浮かぶ高層団地、湿地を渡る高速鉄道の高架線、棄却された工場、など。登場する人々は、貸し菜園の管理人、ボクシングに専心する若者、オールド・スタイルなロック・ミュージシャン、自然公園の従業員、船乗り、など。
 語られている人生・歴史と、映し出される風景、流れる音楽が完全に融け合っていて、たぶんアルバムよりこのDVDの方が、描きたいことが明瞭に表現されていると思う。









 インタビューでは、このアルバムではポジティヴィティを称揚していると語られている。亀裂だとか雑草だとかも腐敗ではなく生命活動の一環であって、汚れていることも美と見ることができる、と。http://www.youtube.com/watch?v=Dh4TzCS4kJU
 自然だとか田園的なもの、あるいは観光対象となる伝統といったものとの対置でマイナスイメージに見られがちな「都市の構成要素」をこのように肯定する視座には、とても共感できる。


 音楽自体は、ビートに駆動される Underworld と異なりアコースティックも含んでもっと抒情的、ときに壮大。
 歌詞も、文脈なしにつぶやかれるキーワードだけで構成されることもよくあった Underworld のスタイルとは離れ、もっと直截的な文章によって謡われている。地理や建物に関する語を散りばめ、断片ではなく物語として提示している。



Official : http://www.karlhyde.com/map.html
 作品の舞台となる場所の写真がインタラクティブ・マップで表示されるようになっている。
ASIN:B00B4ZMRO2










music log INDEX ::

A - B - C - D - E - F - G - H - I - J - K - L - M - N - O - P - Q - R - S - T - U - V - W - X - Y - Z - # - V.A.
“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell