ジャズ+ヒップホップ。
アルト・サックス奏者でコンポーザー、音大で教鞭も執るジャズ・ミュージシャン Steve Lehman のプロジェクト。
このアルバムは2人のMC、HPrizm(AKA High Priest)と Bamar Ndoye(AKA Gaston Bandi Mic)を加えラップを大きくフィーチャーしているのが特徴。
HPrizm はニューヨークのユニット Antipop Consortium の創始者で、DJ Vadim との協働なども含めアブストラクト寄りアンダーグラウンド・ヒップホップを展開してきた。一方、Bamar Ndoye はセネガルで活動するラッパー。かなり前から現地のウォロフ語によるヒップホップが盛り上がっている土地で、強権体制を批判する社会運動の基盤となって大統領退陣も果たしたほどだったりするらしい。
この異質なMC2人による英語とウォロフ語のラップに Steve Lehman のアルトサックスが絡み合う構図なのだが、単にラップとバックトラックという関係にはなく、互いに激しく呼応する動的な曲となっているところが秀逸な点。進行が読めない縦横無尽のリズム展開も非常に刺激的。
「ジャズ+ヒップホップ」と言ったときに思い起こされる事例、たとえば Guru の Jazzmatazz や Robert Glasper の Black Radio なんかだと、あくまでもトラックの上にラップが乗っているものとして聞こえるけれど、Sélébéyone の場合、サックスにしてもドラムにしてもそれぞれが強く自己主張し楽曲を主導しようとせめぎ合っていて、その抗争が楽曲の駆動力を生み出しているように思える。
同じようにジャズとヒップホップの融合といっても、Robert Glasper がピアノであるのに対し Steve Lehman はアルト・サクソフォーンだといったあたりも音の違いにつながる理由かもしれない。呼吸に伴って音を生成する管楽器は、ラップの発声に近い面があるとも言えるからだ。
レコード-サンプリング-ラップという一方向的な先後関係が本来のヒップホップのつくられ方であるとするなら、このアルバムはヒップホップの範疇からは外れてしまう。でも、英語ラップ/ウォロフ語ラップ/サックスの関係は、複数MCのフリースタイル的なダイナミズムそのものと言えないこともない。そして、ここにあるラップと楽器の拮抗をジャズのアンサンブル、インプロビゼーションと捉えることもできる。そのように両分野の方法を横断的に備えたこのプロジェクトは、ジャズ+ヒップホップの卓越した試行だと思う。アルバムタイトルおよびプロジェクト名として掲げられる “Sélébéyone” はウォロフ語で「交差点」を意味し、ジャンルや地域・文化を跨ぐこのアルバムのスタイルを体現している。
Steve Lehman
Information
Origin | : New York City, US |
Current Location | : Hoboken, New Jersey, US |
Born | : 1978 |
Links
Information
Years active | : 2015 - |
Current members | |
Steve Lehman | : Alto Sax, Composition |
HPrizm | : Rap, Lyrics |
Maciek Lasserre | : Soprano Sax, Composition |
Bamar Ndoye | : Rap, Lyrics |
featuring | |
Damion Reid | : Drums |
Drew Gress | : Bass |
Carlos Homs | : Keyboards |